鴉 137

 自分でもどうかと思う。



 自分の行動に自分でびっくりもしてる。



 でも、そうしたいと思うから。



 そうしていたいと、思うから。






 困ってる光には悪いとも、思うけど。






 俺はとにかく光にくっついてた。






 天狗の様子からして、光の状態は多分最悪だった。



 そして光の様子からして、最悪の結末を迎える予感が少なからずあった。






 最悪の結末。






 光に無数の矢が刺さって、ドロドロのヘドロに喰われて。そして………っていう。






 それが、気狐に頬擦りをされて、光は『普通に』目を覚ました。






 昨日と違うって、すぐに俺にも分かった。



 光を見た天狗が大騒ぎした。だから大丈夫なんだと確信した。






 鏡で見た光のヘドロは、増えてたけど絶望的な増えじゃなかった。



 所々光も見えてた。






『これならひとつ目ちゃんの力で消える』






 つまり。



 光は死なない。光は大丈夫。






 昨日からの今日。






 不安、心配、悔しさ、恐怖。



 光に引きずられて増幅してたのもあるかもだけど、俺的最高記録のそういうのからの、安心。安堵。けどまだ少し心配。何で?っていう疑問。またなる?って気持ちと。



 そういうのでちょっと俺は。






 光を離したくない。離れたくない。



 可能なら光をポケットに入れて歩きたい。






 でも、不可能だからこれぐらいは。



 許せ。これぐらいはいいだろ。



 死ぬほど長い夜を耐えたんだから。






 で、光の服をつかんでた。



 触れるのは、あんまり光は望まないかもしれないし、また変に思い出させても。



 その気持ちと、離したくない。離れたくない。



 その気持ち。






 葛藤の末の、服。






 さすがにご飯を食べるときは離したけど、いつもより椅子は近づけた。



 食べ終わったら袖口をつかんでた。



 歯磨きをするのもついてった。一緒にやった。



 掃除や洗濯は天狗がやってくれた。オレ今日仕事休む‼︎って。



 だから鴉は心ゆくまでぴかるんにくっついてればいいよって。






 光も、ちょっと困った顔をしただけで、ダメとは言わなかった。



 ただ、トイレだけはついて行ったときに本気で怒られた。






 仕方なくトイレは諦めて、俺がトイレに行くときも諦めて、ひとりでトイレに行って戻って来たら、光が窓を開けた廊下でカラスを脚の上に乗せてた。



 カラスを頭から身体と撫でながら、さっきは大きい声出してごめんねって謝ってるとこだった。






「怒ったんじゃないよ?鴉が僕のことすごい心配してくれて、僕が泣かせたようなものだったから、今日は攻撃しないであげて欲しいんだ」






 クワってカラスが鳴いた。



 分かった、なのか。イヤだ、なのか。






 気狐は気狐で光の側に座ってる。






 気狐。妖狐。真っ白な狐のあやかし。






『オレたちってお互いにどんな力があるか、実は全然知らないんだよね〜』






 光が起きる前、気狐が光にくっついてた。



 光も夢で気狐がすりすりしてくれてたって言った。






 じゃあ、光を助けたのは気狐?






 の、答えは、誰にも分からない。






 ただ、気狐はずっと光にくっついてる。ずっと一緒に居る。






「光」

「んー?」

「天狗が新しい鳥居を作るって」

「え?」

「持って帰って来たやつは直すのが難しいからって言ってた」






 残念だけどこれはさすがに無理だなあ。



 天狗はばらばらになってる鳥居を見て言った。






 そっかって。



 光もまた残念そうだった。






「天ちゃんって大工仕事もできるの?」

「できるよ」

「すごいねぇ」






 光は目を輝かせて言って、僕も教えてもらおうかなあって気狐の頭をふんわり撫でた。






 ふわり。





 消えない悲しいにおいが、光からした。

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