光 136

 ごめんなさいって言ったら、ありがとうって鴉が。






 何でありがとう?






 不思議に思ったけど、何が?も何で?も発することができないまま僕は。






 光って、鴉に抱き締められた。めちゃくちゃ力いっぱい。ぐえって変な声が出そうになったぐらい。






 鴉は心配がMAXになるとスキンシップの激しさが増す。



 だからきっとこれは。






 ………振り切れちゃった感じ。






 目が、赤かった。



 腫れぼったかった。



 いつもの鴉と全然違う顔で空気。



 しかも僕を見て泣いて。さらに。






 光って、泣いてる。






 大きい身体の、大人の男の人が。



 僕を心配して。僕を………想って。



 親やきょうだいでもないのに。赤の他人。たまたま僕を拾っただけ。なのに。






 カアアアアアッて、かーくんが全力で鳴いた。



 ばさばさって羽の音。






 うわ、これ鴉にやばいやつ‼︎って、かーくんダメって思わず思いがけず大きい声が出た。






 かーくんは突っ込もうとしてた鴉を飛び越して畳の上に着地して、それはそれは悲しそうに小さくカアアアアアッ…て鳴いた。………泣いた。






「ごめんね、かーくんっ。でも違う‼︎怒ったんじゃなくて‼︎ちょっと今は鴉がっ………」






 鴉が泣いてるから。



 僕を力いっぱい抱き締めたまま、抱き締めっていうより、もうしがみついてるんだよ。



 そんな風に泣かれたら。



 こんな風に。泣いてるから。






 僕はそっと、鴉の背中に手を回………。






「うわあああああっ‼︎ぴかるん‼︎」






 そうと、思ったんだよ‼︎



 ちょっとこのままって。



 だからかーくんを止めたのに‼︎






 いきなりの天ちゃんの大声に、鴉と僕とで思いっきりびくうぅぅってなった。






「ぴかるん〜‼︎ぴかるん〜‼︎」

「ええ、何⁉︎何⁉︎」






 鴉は左側から。



 そして今度は右側から天ちゃんが。






 うわあああああんって、泣いてはないけど言いながら、僕は右側から天ちゃんに鴉ごと抱き締められた。






「何で⁉︎どうして⁉︎何があったの⁉︎ってどうでもいい‼︎ぴかるん、良かった〜‼︎良かった〜‼︎」

「だから何が⁉︎何のこと⁉︎っていうか苦しいよ‼︎天ちゃん‼︎」

「ぴかるん〜っ。オレも泣いちゃう〜。うわあああああん」

「くーるーしーいーっ」

「………」

「ぴーかーるーんーっ」

「もうっ‼︎誰か説明してーっ」






 鉛が乗ってるみたいに重かった身体は、目が覚めたらだいぶ軽くなってた。



 天ちゃんが騒いで、かーくんが天ちゃんを威嚇して、鴉がぐすぐす鼻を鳴らしてる賑やかな部屋。



 きーちゃんがきゅうって、小さく鳴いたのが聞こえた。











「あの、か、鴉?」






 朝の………って言っても、今日はいつもよりだいぶ遅くなった鏡チェックをして僕たちはぞろぞろと部屋を出た。



 朝ご飯にしようって。






 鏡の中の僕は、僕があんまり見えないぐらいのどろどろにまみれてて、やっぱりそうかって思った。



 昨日よりはマシだけど、少し重いから。身体が。鏡を見なくても、ずんってやつを感じてたから。






 天ちゃんによると、今朝の僕は昨日の僕よりめちゃくちゃいいらしい。どろどろがかなり減ってるらしい。



 どれぐらい違うって、昨日のままだといっちゃんが来てくれても何もできないぐらい。とか。



 天ちゃんは、正直1週間も持たないんじゃないかって思った、とか。






 それぐらい。






『何が持たないの?』

『ぴかるんの命』






 聞いて、びっくりした。



 聞いて、納得した。






 まさか自分がそんな風になってたなんてことにびっくりと。



 これ。



 この。






 鴉。






 鴉が、廊下をぞろぞろ歩く僕の後ろ。






 誰もが知ってると思うけど、鴉は大人。



 鴉は街を歩いてたらきっと多くの人にちらちら見られるんじゃない?ってぐらいスタイルが良くてカッコいい大人の男の人。



 でもって無表情で無愛想であんまりしゃべらない、なんていうか、クールキャラ?っていうの?






 その鴉が。






 光って泣いた。



 天ちゃんが騒いでくれたから?大粒の涙は止まったけど、まだちょっとぐすぐすしてる。



 ってね、それはいいんだけど。






 ぞろぞろぞろぞろ。






 天ちゃんに僕にかーくんにきーちゃん。



 そして鴉。






 鴉が。






「服伸びちゃう」






 僕の後ろを歩きながら、僕の服の裾を離さない。






 ………離さないんだよ。小さい子みたいに。






 服が〜って後ろを見たら、僕の服の裾を持った鴉が、まだ目をうるうるさせてた。






 大きいのに。



 僕より全然大きくて、大人なのに。






「………鴉がかわいすぎる」






 天ちゃんの呟きに、かわいいっていうか何ていうか。






 今日はずっとこんな感じなのかなって、僕はちょっと諦めモードに入った。

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