鴉 136

「今日はぴかるんが起きるまで一緒に寝てよ」






 天狗がそう言って、ほらほらって引っ張って行かれた。






「カラスと気狐ちゃん、ちょっと退いて〜?で、ぴかるんもうちょいこっち」






 そして、光を何かから守るみたいにぴったりくっついてたカラスと気狐に言って退いてもらって、光を俺と光の布団の真ん中寄りに動かした。






「オレこっちでいい?」

「………いい、けど」

「んじゃ鴉はそっちね」

「………」






 いつも天狗は帰って来てもすぐには寝ない。



 風呂に入ったあとさっきみたいにお茶を飲んで一服して、朝ご飯を作って俺たちが起きるのを待ってる。



 食べ終わってから寝てる。






 それだけ天狗も光が心配なのか。



 プラスで多分、俺のことも。






 天狗は俺の布団側に横になって、仰向けに寝てる光を何かから守るみたいに腕を乗せた。






「ほら、寝よ」






 促されて、俺は天狗とは反対側。光の布団の方に横になって天狗と同じように光の身体の上に腕を乗せた。何となく。天狗の真似。






 光を、何かから守れればいいなって。






 カラスと気狐も、それぞれ光にくっつく。






「おやすみ、鴉。おやすみ、ぴかるん」

「………おやすみ」






 そして部屋はまた、夜の静寂に戻った。






 俺は、天狗におやすみって言ってからも全然、まったく眠れなかった。






 寝てる間に光に何かあったら。






 そう考えたらこわくて眠れなかった。






 光に乗せた腕に時々力を入れた。



 光の頭を時々撫でた。



 息をしてるか確認した。






 それは何の安心材料にはならなかった。






 しばらくして、外が明るくなってきた。



 長い長い………ひどく長く感じる夜だった。











 明るくなって、いつもなら起きる時間を過ぎても、光は全然起きなかった。






 それは単純に昨日の疲れか。






 珍しく昼寝なんかするぐらい動いてた。



 その上色々。






 夜は夜で不安だった。



 でも、朝が来ても、時間が経てば経つほどまた不安だった。






 部屋はどんどん明るくなって、どんどん外の日差しが強くなって、それでも光は起きなかった。






 天狗は寝てる。



 カラスも気狐も。






 とにかく光を見てた。



 眠れなくてずっと。






 こんなのは初めてだった。こんな風に不安や心配で眠れないことは。



 どんなにひどい風や雨や台風の日でも、眠れない日なんかなかったのに。






 どれだけ見てたんだろうってぐらい、光を見てたときだった。






 気狐がむくって起きて、何を思ったのか光の足元から頭の方に移動してきて、あやかしの証拠でもある分かれた尻尾で光の顔を撫でた。






 いつもは寝相の悪い光が、今日はまったく動いてなかったのに、ぴくんって、反応した。






 起こしたいのか?心配で?






 もしかしたら、昨日の光がいつもの光ならやめろって気狐を止めて、自然に起きるまで寝かせておいたかもしれない。






 けど今日は。






 もう、いい加減起きてくれって。






 気狐は小さくきゅうって鳴いて頬擦りをした。






 そして光が。



 光は。






「光」






 光の目が、開いた。



 やっと。






 やっと。






 何故かきょろきょろ辺りを見渡してた。



 天狗の方を見て、俺の方を見た。






 泣き過ぎの目をしてた。






「光、大丈夫か」

「………え?」






 不思議そうに返事をした光が俺を見て、ちょっとびっくりしたように目を見開いて。






 手が。



 光の手が。






 俺の目元に。触れた。






「………寝れなかった?」






 起きた。



 光が起きた。



 起きて俺の心配をしてくれた。






 ぶわって涙が溢れた。良かったって。安心の。



 起きた。起きてくれた。俺の心配をしてくれた。






 ありがとう。






 心の底から、そう思った。

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