光 135

 自分の外側も内側も、鉛が乗ってるみたいだった。



 重くて重くて、何も持ち上がらない。



 手も足も。






 瞼さえ重くて、持ち上がらない。






 気持ちも、持ち上がらない。



 僕なんか。どうせ。






 鉛を背負って、どろどろの泥水に沈んでく感じ。



 さらさらの水じゃない。



 するする落ちていくんじゃない。






 コンクリートが固まる前ってこんな感じなのかも。






 そういうとこに、僕はどんどん沈んでるみたいだった。






 どこまで沈むんだろう。



 底ってある?






 抗って浮こうとするから余計に苦しくなるのかもしれないよね。



 だって楽だもん。この方が。



 こうやって重さに任せてればいいだけだから。






 ああ、でも。






 これって夢?



 僕はまた夢を見てる?



 目を開けたら母さんの口がいっぱいで、なんでって言う?






 夢ならいいけど。



 夢なら覚めるから。






 けど、もしこれが夢じゃなかったら。






 っていう発想がもう夢っぽい。



 だって夢に決まってる。



 現実でこんなことは起こらないよ。手も足も動かない。瞼さえ持ち上がらない状態で、泥水みたいなのに沈んでく、なんて。






 けど。






 しつこく思う。



 もしこれが夢じゃなかったら。






 思ってるこの思考ってどこから来るの?






 意識もしてないのに浮かんでくる。






 けど。



 もしこれが夢じゃなかったら。このままどんどん沈んで沈んで沈んで、底の底まで沈んだら。






 そこには絶対。






 ………鴉は、居ない。






 イヤ。



 そんなのイヤ。鴉が居ないのはイヤ。



 鴉だけじゃない。



 天ちゃんが居ない、かーくんが居ない、いっちゃんが居ない、きーちゃんが居ない、まーちゃんが居ない。






 そんなの。






 そんなの、絶対絶対。






 ふさって。



 柔らかくてあったかい何かが僕の腕や顔をくすぐった。






 きーちゃん?






 そう、これは。目を開けなくても分かる。



 この感触はきーちゃん。



 目は開かないけど分かるよ。



 出かけた日は毎回僕が洗ってるから。かわかしてるから。






 動かない手を必死に動かして、きーちゃんのふさふさのどこかを一房にぎった。






 その瞬間、ぱあぁぁんって何かが弾けて、泥水も鉛も一瞬で消えた。






 軽くなった瞼を持ち上げて開けたら、そこは一面真っ白なところだった。






 白すぎて眩しい。






 眩しさから逃げるために閉じようとする目で気配の方を見たら、そこにはやっぱりきーちゃんが居た。



 僕の顔に、真っ白な顔を擦り寄せてくれてた。






 きゅう。






 きーちゃんが鳴く。






 よしよしって、僕はきーちゃんを撫でた。











 暑い。



 何かすっごい暑いんだけど‼︎






 って、何で⁉︎って目を開けたら身体がめちゃくちゃ重かった。






 何で⁉︎って見たら、布団の上。



 僕は何故か天ちゃんと鴉に両側から密着されてて、天ちゃんと鴉の腕がでんでんって乗っかってた。






「光」






 隣からすぐ声。鴉の。






 何でこんなことになってる?って頭がぷちパニック。






 部屋、明るいし。






 結構日差しが高い気がする。



 いつも起きる時間より絶対全然遅い。






「大丈夫か」

「………え?」






 何が。






 って、鴉を見たら、鴉の目が腫れぼったくてしかも赤かった。






 それで思い出す。



 昨日。昨夜。






 泣いた鴉を。



 僕が悲しいって、泣いた鴉を。






「………寝れなかった?」

「………」






 思わず手を伸ばしてその目元に触れた。



 すぐ真横で僕を見てる鴉の目に、ぶわって涙が浮かんで、光って呼ばれた。






 ごめんなさい。






 僕を心配して眠れなかっただろう鴉に、僕は小さく謝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る