鴉 131
水を入れたバケツを持ってきてから、皿に乗せた蝋燭にマッチで火をつけて、ほらやれって光に花火を渡した。
鴉はやらないの?って聞かれて、数が少ないから光ひとりでやればいいと思ってたけど、まあいいかって1本取った。
「花火なんてすごい久しぶり」
「俺は毎年やってる」
「え?」
「天狗が毎年こうやって持って帰ってくる」
「ふたりでやるの?」
「ふたりでやる」
ふたりでっていうか、主に天狗がぎゃーぎゃー言いながらやって、俺が見てる。
何なら時々打ち上げ花火もやる。天狗がぎゃーぎゃー言いながら。
どうやら光は何かを想像したらしい。
ぶって吹き出して、笑ってる。
「何かシュールだ」
笑ってる。
良かったって、少し安心した。
結局ふたりで1本ずつ、半分ずつやって、最後の1本を光がやった。
肩にカラス。
足元に気狐。
黒と白を従える、満天の星空と光と花火。
最後の花火をやりながら、夏の思い出ができたって笑みを浮かべる光は、異次元レベルにキレイだった。
煙のにおいがすごいからって、順番に軽くシャワーを浴びた。
先に光で後が俺。
出てからいつものように光の髪の毛をかわかした。
光はおとなしくかわかされてた。
俺は、これでいい。
光と居ると、光と居たいと思う。
光が困ってるなら手を貸したい。
俺にできることならしてやりたい。
俺が知ってることなら教えてやりたい。
できなかったことができるようになったら嬉しい。
くるくる変わる顔を見たい。
俺の横で、近くで、こうやって安心してるとこを見たい。
その安心を俺がここで。ここに居て、光の横で。
それが何て言う気持ちで感情かなんて、どうでもいい。
いつか光がここを出て行くとしても、出て行ったとしても。
できる何かを、俺はやりたいだけだ。
「よし」
光の黒髪がキレイにかわいて、俺はめちゃくちゃ自己満足でドライヤーのスイッチを切った。
なのに朝は大爆発な頭だから不思議なもんだ。
コンセントを抜いて、そのまま洗面所にドライヤーをしまいに行こうと思ったら、光が。
鴉って。
行こうとしてた俺のTシャツの裾を、心なしか耳を赤くして引っ張った。
「ん?お茶飲むか?」
「………要らない」
耳が赤いから暑いのかと思ったけど、違うらしい。
そのまま黙る光。
座ってる光を、引っ張られて肩越しに見下ろす俺。
ぎこちなさは、さっきの花火で少しマシになった。
と、感じたのは、気のせいだったか?
黙ることどれだけか。
そろそろ首が痛い。
「鴉と居ると」
「………?」
俯いてた光が、キッて睨むみたいに、挑むみたいに俺を見上げた。
俺、怒られるのか?って思わず思う、そんな顔。
「僕‼︎鴉と居ると‼︎鴉と居たいと思うよ‼︎」
「………っ」
光はそれだけ言って、言い放って、ばたばたと走って逃げて行った。
俺は。
………俺は。
ふさって、気狐の白い尻尾が俺の顔を掠めた。
気狐と目線が同じ。
俺は、光からのまさかの言葉に、びっくりしすぎて腰が抜けて膝から崩れて、床に撃沈した。
そして、ばさばさってテーブルの上からおりてきたカラスに、何でか頭をつつかれた。
光。
俺が拾った小さいの。
俺に色んな感情をくれた小さいの。
その悲しいにおいを、俺が少しでも消せたらいい。
床に撃沈したまま、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます