光 128

 これ。



 この会話。






 僕が寝てるソファーの前と後ろ。鴉と天ちゃんのそれを、僕が聞いてるって知られたらヤバい。絶対ヤバい。超絶ヤバい。






 心臓がばくばくして、顔や身体が熱くなった。それこそのぼせて鼻血が出そう。






 もうやめようよ。



 違う話にしようよ。



 天ちゃん仕事は?準備しなきゃじゃないの?






 って僕の思い、願いもむなしく、会話は続いた。






「………光と居ると」

「ぴかるんと居ると?」

「………光と居ると、光と居たいと思う」






 ぽつぽつ。ぼそぼそ。



 鴉が話す。僕のことを。僕に思ってることを。






 それが本当にぽつぽつで、ぼそぼそで、鴉が鴉すぎて、ぎゅうううって僕の胸のあたりが、した。






「光が困ってるなら手を貸したい。俺にできることならしてやりたい。俺が知ってることなら教えてやりたい。できなかったことができるようになったら嬉しい。くるくる変わる顔を見たい。俺の横で、近くで、こうやって安心してるとこを見たい。その安心を俺がここで。ここに居て、光の横で」

「………うん。それはすごく素敵な気持ちだね」

「………でもそれがどんな名前の気持ちかは、俺には分からない」






 鴉。






 聞いてて泣きそうだった。



 鴉は、どう意味かまでは分かんないけど、鴉は僕のこと好きだよね、とは思ってた。



 僕が抱きつくと真っ赤になるぐらいには、僕のこと。






 でも、聞いた言葉はもっとだった。想像以上。どんだけってぐらいじゃん。もうめちゃくちゃ好きじゃん、僕のこと。






 それがどこのカテゴリーになるのかは、僕にも分かんないけど。






「うん、大丈夫。それでいいんだよ、鴉は」






 鴉のぽつぽつぼそぼそを、天ちゃんはものすごい優しく聞いてた。



 それに僕は、余計に泣きそうだった。






「何かしたいことある?」

「したいこと?」

「ぴかるんのために」






 だからもうさ。もうさ‼︎



 もうやめようよ。本当に泣いちゃうってこれ以上は。






 僕だよ?こんな僕。



 ここに何しに来たって、今はそんなつもりないけど、ここに死にに来た僕だよ?



 母さんが死んじゃった。父さんが帰って来なくなっちゃった。挙句に高校で………僕は。



 矢が刺さってて、抜けてちょっとはマシになったかもだけど、まだ1本は刺さったまま。






 鴉だってそれ知ってるじゃん。鏡一緒に見て知ってるじゃん。






 なのに。



 こんな僕なのに。






「………俺にできること、なんか」

「あるよ。いっぱいある」

「………」

「鴉はね、知らないだけ。知っていけばいくらでもある。多分びっくりするぐらいいっぱい」






 天ちゃん。もうやめて。






「俺に何が、できる?」






 鴉も、いいってもう。



 もう十分。



 もういっぱいしてもらってる。



 僕はふたりに。ふたりだけじゃない。



 いっちゃんにもかーくんにもきーちゃんにもまーちゃんにも。もう本当に、いっぱいいっぱいしてもらってる。



 その中で鴉は一番だよ。



 一番いっぱい、もう僕は。






「知りたい?」

「知りたい」






 ふふって、天ちゃんが優しい声で笑った。



 そして。






「鴉はぴかるんのこと、めちゃくちゃ大好きだね」






 って。






 鴉は何も言わなかった。



 けど。



 それが僕には、うんって聞こえた。






「うんうん、良き良き。じゃあこれから色々勉強だー」






 ダメだ。泣く。






 僕はめちゃくちゃ頑張って寝たフリをして、熱いけど寒い感を出して、鴉がかけてくれた布団の中に、もぞもぞ潜って、隠れて泣いた。

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