光 125
髪の毛を切ってさっぱりしたのもあって、今日はいつも以上に頑張った。
大きい鳥居みたいにたくさんある、倒れてたり壊れてたり色がハゲハゲの小さい鳥居を抜いていいのかは、あらかじめ天ちゃんに聞いておいた。
『気狐ちゃんが良ければ大丈夫だよ〜』
荒れ荒れとはいえ、神社だからね。そこの鳥居だから。
天ちゃんに聞いて、きーちゃんに聞いて、きーちゃんがいいよって言うみたいにきゅうって鳴いたのを確認してから、掘り出した。引っこ抜いた。
力技でやると壊れるから、スコップで地面を掘って。
これがなかなか大変で、僕も鴉も汗だくになった。
壊れてるのも結構あった。
鴉が器用に直してくれた。
鴉が直せないって言ったやつは相当ぼろぼろだったから直すのは無理かと思ったけど、そんなぼろぼろのなのに鴉が『天狗なら直せるかも』って言って持って来てた大きいビニール袋に入れるから、僕はちょっとびっくりしてた。
この人たちにできないことってあるのかな。
もしかしてほぼほぼないんじゃないの?
カッコいいしスタイルいいし優しいし面倒見いいし家事完璧だしその上器用とか。
引っこ抜いた鳥居の土や泥を小さいほうきでキレイにしながら、赤いペンキで色を塗ってる鴉を、僕は何度も盗み見した。
ペンキをかわかしてる間にお弁当を食べた。
って言っても食べるのは鴉と僕だけ。
かーくんはどこかに行ってて、そのどこかで食べて来てるみたいだし、いっちゃんきーちゃんまーちゃんは、人のご飯は食べない。
「このお肉好き。おいしい」
「………知ってる」
「え、何で知ってる?」
「見てれば分かる」
見てれば分かる。
無愛想な言葉。
なのにどきん。
だって見てたって分かんないじゃん。
その人がそれを好きかどうかなんて。
って僕は思っても、鴉には分かるんだよね。
つまりそれぐらいちゃんと僕を見ててくれてるってことで。
ちら。
もう今日どんだけしたか分かんないぐらいしてる鴉の盗み見をまたしてたら、つい。
『似合ってる。かわいい』
今朝のことを思い出して、わわってなった。
顔がぼぼって熱くなった。
意識しすぎだから‼︎鴉のこと‼︎
何かもうダメなんだって。
鴉は本当に僕を好きなんだ思ったら何かすごく鴉が気になって、気になってるところに鴉って無愛想にぼそっと優しくするじゃん⁉︎
それって反則じゃない⁉︎
その好きがどの種類の好きかまではさすがにナゾだけどさ、とりあえず僕が抱きついたら赤くなるぐらいの好きはあるって知ってる。
男なのに、とは思わない。そこはもう色んなものをぶち壊された。『あの』一件で。
鴉は、透明な心を持ってると思う。キレイだよね。
そんな透明の人は、ダメだよ。………僕じゃ。
その後僕たちはいつも通り、無言でお弁当を食べた。
ここに来るときーちゃんは僕から離れて座って辺りをじっと見てる。
その背中がどうしても寂しそうで、僕は自分からきーちゃんの隣に行く。
そして真っ白でふわふわの毛を撫で撫でする。
荒れた、きーちゃんがかつて居た場所。
きーちゃんの本来の帰る場所。
僕が住んでた家はどうなってるんだろう。
学校はどうなってるんだろう。
父さんは。
きーちゃんと並んで、きーちゃんと同じ方を見てるのに、僕の目にきーちゃんと同じ景色はうつってなかった。
「光」
「ん?」
呼ばれて振り向いたら鴉が僕に上着を差し出してくれてた。
風邪をひくことを心配してくれてるんだってすぐに分かって、ありがとっておとなしく上着を着た。
確かに身体が冷えてた。
本当に、この人は。鴉は。
降参したくなる。参りましたって。
何に?だけど。そうなるよ。見てたら絶対。
そのほんの少しでも、真似できたら、とかも。思うよ。そしたら少しは。僕も。
「あ、あの、鴉」
「………?」
「………朝は、ありがと」
「………朝?」
少しでもってことで、そうだって思ったのは朝のこと。
朝僕は鴉に助けてもらったのにありがとうを言い損ねてた。
それはイヤだ。それぐらいちゃんとしたい。
きーちゃんの横から立ち上がって言ったら、何のことだ?って。
朝から時間が経ちすぎてて伝わらなかったらしく、鴉が不思議そうに首を傾げてた。
「髪切ったとき、天ちゃんが近いって思ってたの分かったんだよね?」
だから助け船的にあんなことを。かわいいなんてことを。
助かったは助かったけど、あの後大変だったよ。天ちゃんに色々言われて。聞かれて。
でも、ぐいぐい近づいてくる天ちゃんに、下がることもできなかったあの状態はちょっと怖くて、やっぱりありがとう、なんだよ。
ああって、鴉は思い出したみたいに言って、ひょいって何でか僕の顔を覗き込んできた。
目の前に鴉の顔。
鴉ってさ、やっぱりイケメンだよね。カッコいい。
同じ男の僕でも思うよ。しみじみ。
真っ黒な目。真っ黒なのに澄んでるっていうの?濁りがない。星とか見えそうな目。
キリッと眉毛。鼻が高い。
って、観察してる場合じゃない。
何だろう。僕をじっと見て。
「鴉?」
「髪、いいな」
「へ⁉︎」
「光は元々整った顔をしてるけど、髪がそれぐらいだともっと整って見える」
「………っ」
ぐわんって、衝撃。でっかいボールが頭にぶつかったような。
「………なっ…なっ…なっ」
「ん?」
「何言ってんの、鴉っ」
「いつも思ってることを言ってる」
「………っ」
「光はキレイな顔をしてる。俺は好きだ」
なっ。
何を。
何で急に、そんな。
文字通り目の前のイケメンから炸裂した予想もしてなかった言葉に、衝撃が凄すぎて僕は言葉を失った。
失うでしょこんなの。
なのに鴉は『ん?』とか言ってるし。
「鴉って」
「うん」
「鴉って」
「うん」
「鴉って、タラシだ………」
「タラシ?」
「しかも天然」
「天然?」
「しかも通じてない」
「………?」
こんな風に僕が帰る日までタラされたら、僕は。僕は。
上着を着たことを後悔するぐらい、僕の身体はあつあつに熱かった。
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