光 117

目が覚めたら朝だった。



目が覚めたら鴉は居なくて、かーくんときーちゃんがいつものように僕が起きるのを起きて待っててくれてた。



おはようってふたりを撫で撫でする。



おはようって言うみたいにクワって、きゅうって返事をしてくれた。






それから日課の鏡チェック。



矢が1本。気持ち悪いぐらいぶすって僕の首に刺さってて、どろどろが少し。



昨日よりどろどろが増えてるのは、いっちゃんが居ないからか、変な夢のせい。



でも、大して増えてない。



よしって僕は、部屋を出た。











「天ちゃんおはよー。おかえり」






台所を覗いたら、天ちゃんが居た。



天ちゃんしか居なかった。






金髪に甚平、じゃらじゃらアクセサリーの天ちゃんが、鼻歌を歌いながら朝ご飯の準備をしてた。



外見が外見なだけに、何とも言えない奇妙な光景。






「ぐっもーにん、ぴかるーん。そしてただいまー」

「鴉は?」

「ああ、あっち。ソファーに転がってるよ」

「え?」






朝からハイテンションの天ちゃんに、朝はちょっとついていけない。



んだけど。






ソファーに?何で?






トイレに行ってるとか、どこか掃除してるとか、散歩とか。



鴉は早起きの人で、起きたら何かしてる人だから今日もてっきりそうだと思った。なのに。






「鴉?」






呼びながら覗いた居間。ソファーの上。



長い脚がソファーからはみ出てるのが見えた。






僕は同じところに寝てもどこもはみ出ない。






くそうって思いながらソファーに近づいて、もう一回呼んだ。






仰向けに寝転がって閉じてた目が、ぱちって開いた。






鴉って呼び名にぴったりな、黒い黒い、目。






「大丈夫?」

「大丈夫。眠いだけ」






眠い、だけ。






それは、もしかして。






「光?」

「………僕が昨夜起こしちゃったから?」

「それは違う」

「………でも」






違くないでしょ。そうでしょ?



だって昨夜謎で変な夢を見てた僕を起こしてくれたじゃん。



水を汲んできてくれて、心配してくれたじゃん。



それで寝れなくなったんじゃないの?






もしそうでも。



例えそうでも。






鴉はそうって、言わない、か。






あれって何時ごろだったんだろう。



その前までの数時間しか寝てないなら、眠いよね。






じゃあ今日は僕がいつも鴉がやってることをやらなきゃ。その間に寝ててもらおう。






って‼︎僕は考えてたんだよ‼︎



起こしちゃってごめんなさい。だからお詫びにって‼︎



なのに‼︎そしたら‼︎そしたら‼︎だよ‼︎






「光」

「ん?」

「眠いから添い寝」

「………は?」






ぐいって腕を引っ張られて‼︎どすって僕は‼︎



あろうことか鴉の上に乗っかっての肉布団状態‼︎だよ‼︎






「何っ⁉︎何で⁉︎離してっ」

「光のせいで目が覚めて、それから眠れなかった」






って‼︎






「だから眠い。頭と身体が重い」






って‼︎






今の今違うって言ったくせに‼︎僕のせいじゃないって言ったくせに‼︎だよ⁉︎






「………それは、ごめんなさい」

「だから添い寝」

「だからっ‼︎そのだからの意味が分かんないの‼︎おろして‼︎離して‼︎僕が乗ってたら重くて余計寝られないでしょ⁉︎」






暴れた。



暴れてみた。鴉の上で。



かーくんも加勢してくれた。



でも。






でも‼︎だよ‼︎






「光のせいだから光が責任取れ」

「それはいいけど、これはイヤっ‼︎」

「俺はこれがいい。じっとしてろ。寝る。30分経ったら起こせ」






めちゃくちゃこのまま寝る気満々の鴉だった。



本当に寝るの?って聞いたら、本当に寝るって。これなら寝れそうって鴉は言った。






これなら。



ってことは。






やっぱり本当に寝れなかったんだ。昨夜は。






「寝れるわけないじゃん」

「寝れたら夜もやる」

「は⁉︎やだよ‼︎何言ってんの鴉‼︎」

「おやすみ」

「おやすみじゃないよ‼︎絶対やだからね‼︎」






何でここの人たちって、人の話を聞いてくれないんだろう。



マイペースすぎて時々つらい。ほんの、時々。






僕の下。



鴉の寝息が聞こえるまでに、そんなに時間はかからなかった。

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