鴉 117

「鴉〜、30分経ったよ〜(泣)起きて〜(泣)」






 耳元。






 光の声だった。



 光の声だけど、ちょっと情けない声。






 鴉〜ってもう一回俺を呼ぶ情けない声。もぞもぞ動く熱。とんとん叩かれる肩。






 ん?って、目を開けたら今の天井だった。



 視界に光の頭も入ってた。顔をくすぐる、柔らかい髪の毛。






 たったの30分だけ寝てもどうだろうと思いつつ、頭と身体が欲するから寝た。



 30分前に光を抱えてソファーに転がってそのまま寝て、そのままの体勢で目が覚めた。






 たったの30分ではあった。






 予想外の30分効果だった。






 さっきよりだいぶ頭がすっきりした気がする。






「かーらーすー(泣)」






 もぞもぞもぞもぞ。



 もぞもぞもぞもぞ。






 光が何とか俺から抜け出そうと動いてる。



 だからわざと俺は、光が動けないよう腕に力を入れた。






 ちっこい身体だ。



 よくこんなので生きてるな。って思うのは、この小さいのから絶え間なく、悲しいにおいがしてくるから。






 光が俺の肩あたりから顔を上げた。



 目が合った。






「もう‼︎起きてるじゃん‼︎」

「………」

「起きてるなら離してっ‼︎」

「………」

「離してってば、この馬鹿力‼︎」






 じたばたじたばた。



 もぞもぞもぞもぞ。






 これで脱出を試みてるって言うんだからな。



 お前はもうちょい力をつけた方がいい。






「天ちゃんたすけてーっ」

「えー?やだー」

「やだじゃないよ‼︎僕がやだよ‼︎」






 全然できない脱出に、ついに天狗に助けを求めて却下。






 そろそろ離してやらないと怒るか。






 さすがに、一晩中この体勢で寝るのは無理だ。それはさすがに重い。



 けど、くっついて寝るのって、意外と。






 気持ちいいもんだな。






 少し名残惜しさを感じつつ、俺は光の小さい身体から手を離した。






「もう‼︎鴉のばかっ」






 顔を真っ赤にした光に俺は目いっぱい怒られて、カラスにもつつかれた。






 夜またやろうって、心に決めた。











 その後少しの間光は機嫌が悪かった。






 今日の朝ご飯はホットサンドで、光は初めてだったらしく作りたいって、ホットサンドメーカーで3人分を作った。



 作りながら時々俺を睨んでは、ほっぺたを膨らませてそっぽを向いた。






 そんなことをしたところで。






「かわいいねぇ、ぴかるん」

「………」






 笑う天狗に、声には出さず、首も振らず、誰にも分からないように頷いた。






「あ、ぴかるん。昨日も言ったけどさ、今日は外出てもいいけど、暑いからあんまり遠くに行っちゃダメだよ〜?」






 できあがったホットサンドを食べながら、天狗が言った。






 うんって返事をしながらも、行きたそうな返事。






「あの鳥居もダメ?まーちゃんが乗せてってくれるから大丈夫だよ」

「大丈夫だと思うんだけどさ、ちょっとずつにしとこ?身体を暑いのに慣らしながら。オレもまだぴかるんと一緒に居たい」

「………天ちゃん」






 まだ、光と一緒に。






 天狗がそんなこと言うなんて思ってなくてびっくりして、思わず天狗を見た。






 天狗を見てるのは光もで、天狗は光にね?って念押しした。






 俺相手のときと同じ顔。



 つまり、保護者的な。






 さすがに光は、それ以上行きたいとは言わなかった。






「すぐそこでお昼ご飯食べるぐらいはいいよね?」

「それはもちろん」

「じゃあ」






 鴉、お弁当作って。






 天狗と光が同時に言って、ふたりは顔を見合わせて笑った。

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