鴉 116

 天狗がいれてくれたホットミルクを全部飲んで、もうちょっと寝てきなって天狗に言われて、歯磨きをしてから光の部屋に戻って布団に入った。






 光はよく寝てた。



 足が俺の布団の上に飛び出してた。






 悲しいにおいが消えない、俺が拾った小さいの。






 結局俺は、そのまま眠れなかった。











「天ちゃんおはよー。おかえり」

「ぐっもーにん、ぴかるーん。そしてただいまー」

「鴉は?」

「ああ、あっち。ソファーに転がってるよ」

「え?」






 眠れなくて光を見てた。



 俺に何ができるんだろうって考えながら。



 でも考えたところで答えなんか出るはずもなく。






 しばらくして俺は起きて、天狗が居る居間に、台所に戻った。



 俺を見て眠れなかったことを察した天狗が、ソファーで転がってなって、俺が光にやるみたいに俺の頭を撫でた。






 違うか。






 俺がずっと天狗にやられてたから、俺が光によくやるんだ。






「鴉?」






 まず台所を覗いて天狗に挨拶をした光が、天狗に俺はこっちって言われてこっちに来た。






 いつまでもここでごろごろしててもなって思う。



 でも、滅多にというか、ほとんどならない寝不足で頭と身体が重い。



 頭と身体が寝たいと言ってる。






「鴉?」






 ひょこって、俺を覗き込む光。






「大丈夫?」

「大丈夫。眠いだけ」

「………」

「光?」

「………僕が昨夜起こしちゃったから?」






 しゅんって、顔がなった。



 心配顔から、落ち込みの。






 確かに、光がうなされてたことは関係してる。



 でも、俺が起きたのはカラスと気狐が俺を起こしたから。



 まあ、起こされなくても起きただろうけど。



 でもその後寝られなかったのは、俺が色々考えてたから。






「それは違う」

「………でも」






 俺が勝手に眠れなくなっただけなのに、自分のせいって顔を曇らせる光。






 優しいんだろう。相手のことばかり考えて。



 だから小さいのがくっついて歩く。今も。






 光の肩にはカラスが乗ってて、足元には気狐。



 きっとひとつ目も、もう少ししたら来る。






 もっと自分のことを考えればいいのに。






「光」

「ん?」

「眠いから添い寝」

「………は?」






 言って俺は光の手を引っ張って、バランスを崩した光をソファーに仰向けになってる自分の上に乗せた。






 ばさばさとカラスが飛んだ。



 光は暴れた。






「何っ⁉︎何で⁉︎離してっ」

「光のせいで目が覚めて、それから眠れなかった」

「………っ」

「だから眠い。頭と身体が重い」

「………それは、ごめんなさい」

「だから添い寝」

「だからっ‼︎そのだからの意味が分かんないの‼︎おろして‼︎離して‼︎僕が乗ってたら重くて余計寝られないでしょ⁉︎」






 じたばたじたばた。






 暴れる光。



 ばさばさばさばさ、攻撃してくるカラス。






「光のせいだから光が責任取れ」

「それはいいけど、これはイヤっ‼︎」

「俺はこれがいい。じっとしてろ。寝る」

「………っ」






 ぬくもり。



 初めて出会った、同じ人間の。






 小さくてもあったかさは変わらないって、それも俺は、光で初めて知った。






 俺は光を自分の上に乗せたまま、つかまえたまま、目を閉じた。






 これ、本気で寝れるかも。






 心配の元がここに居れば、つかまえてたら、心配の量が少しだけ減る気がする。






「30分経ったら起こせ」

「本当に寝るの?」

「寝る。これなら寝れそう」

「寝れるわけないじゃん」

「寝れたら夜もやる」

「は⁉︎やだよ‼︎何言ってんの鴉‼︎」

「おやすみ」

「おやすみじゃないよ‼︎絶対やだからね‼︎」






 俺は相当眠かったらしい。






 光がぎゃーぎゃー言ってたけど、つかまえてるから光のにおいと体温で安心で、俺は何で眠れなかったんだ?って呆れるぐらいあっけなく、すぐにすぐ、眠りに落ちた。

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