光 113

 世話焼き鴉が、僕が使ってる布団を部屋から居間に持って来てくれた。



 着替え一式も持って来てくれて、着替えろって。






 絶対に病院に行きたくない僕は、言われた通り着替えて、大人しくエアコンの効いた居間に敷かれた布団に寝転がった。






 寝転がってたら、僕の近くに来ようとしてたいっちゃんとかーくんときーちゃんにお前らちょっと待てって鴉が珍しくわたわたして3人を抱え上げた。






 お前ら汚いって、連れて行かれた。






 そっか、いつもは帰ってきたら僕が玄関で拭いてから上がって来るけど、今日は僕がこんなでやってない。鴉も天ちゃんもそれどころじゃなかったんだろうな。






 ………そういう僕も手洗ってないけど。






 思わず見た僕の手も、ちょっと汚かった。






 すぐ横に天ちゃんが居るから何となく洗いにも行けなくて、僕は自分の汚れた手を、見て見ぬふりをした。






 鴉にきれいにしてもらった3人が戻って来て、いっちゃんが僕の横に、かーくんが枕の横に、きーちゃんが足元のところにそれぞれ来て座った。






 やっとみんな来てくれたって、ほっとした。






 鴉はその後あちこち掃除してるっぽかった。



 多分砂。天ちゃんが居てくれてるからなんだと思う。天ちゃんが居なかったら、きっとここに居るのは鴉だ。






 廊下の方でしてた鴉の気配と掃除をする音がどんどん近くなって、居間のドアが開いた。






 あれ。






 いつもはほうきと雑巾スタイルなのに。



 この家にそんなのあったんだ?






 鴉は使い捨てシートをはめて拭き掃除的なのをするやつ。それを持ってた。



 それに使い捨てシートではなく、雑巾をはめてた。






 ほうきだと砂やほこりが舞うから?






 なんて思ったりした。






 だとしたら、僕は。




 だとしたら。






 自分がここで大切にされてるって思えば思うほど思う。思っちゃう。






 帰らなくちゃいけないいつかなんて来なくていい。






「あ」

「ん?」

「今日ここで川の字で寝ようよ」

「へ?」

「オレと鴉とぴかるんでさ、川の字」






 天ちゃんと鴉と僕で。






 最近ずっと鴉と寝てる。



 それもどうかと思うのに、そこにさらに天ちゃん。しかも川の字って。






 っていうか、今日川の字って。



 天ちゃん、仕事は?






 今日は休みじゃなかったはず。



 仕事なら僕たちが寝てる時間に天ちゃんは仕事のはず。






「よし‼︎じゃあ鴉の布団持って来よ〜」






 何も答えない鴉と僕の無言をオッケーの意味にしたのか、天ちゃんはぴょんって起き上がって居間を出てった。



 だから僕も布団を出て、黙々と掃除をしてる鴉の側に行って鴉に聞いた。






「今日天ちゃん仕事は?」

「休んだみたいだな」






 そうかなとは思ってたけど。



 やっぱり。






「………僕のせい?」

「『せい』じゃない。心配なんだよ。俺たちは天狗に比べるとかなり脆いから」

「………」

「気にするな。光を大事に思ってくれてるってことだから」






 僕を。



 大事に。






 うん。僕は大事にされてる。



 本当にそう思う。



 だから嬉しくて。だから帰るのがどんどんイヤになってきてて。だから。






「気になるか?」

「………うん」

「なら、今日ここで川の字で寝てやればいい」

「え”」






 今日。



 ここで。



 川の字。






 やっぱりやるの?寝るの?みんなで?






 見上げた鴉は、いつもの無表情の中にうっすら笑みっぽいのを浮かべているように見えた。






 鴉の表情はミリ単位。






 それが僕にも分かるようになってきたのかもしれない。



 分かるようになるぐらい、もう僕たちは一緒に居るんだ。






「まあ、イヤがっても天狗は寝る気満々だろうけど」

「………うぅ」

「ほら寝転がってろ」






 ぽんぽん。






 僕の頭に鴉の手が鴉の笑いと一緒に乗った。






 帰りたくない。



 だから病院には絶対行かない。






 家が先に待つ病院か川の字かなんて、天秤にもかけられない。






 僕は天ちゃんが戻って来る前に、布団にごろんって転がった。

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