鴉 112
その日光は1日おとなしくしてた。
いつまでもソファーに寝かせとくのもなって、光の部屋から光の布団を運んできて居間に敷いてやった。
服を着替えてそこでおとなしく寝てた。小さいの3人に囲まれて。
天狗は仕事を休んだらしく、今日ここで川の字で寝ようよーって、光の横でごろごろしながらうるさかった。
誰も何の反応も示さないのをどう思ったのか、何を思ったのか、よし‼︎じゃあ鴉の布団持って来よ〜って、まだ昼飯も食べてないのに言いながら部屋から出てった。
その隙に布団から抜け出た光が、今日天ちゃん仕事は?って、心配そうにこっそり聞きに来た。
俺はというと、気づけば砂がいっぱい落ちてて、それが気になって落ちてるあちこちを掃除してた。
砂の犯人はひとつ目、カラス、気狐。
まあ、緊急事態だったから。
外に出たままで中に入ったからな。仕方ない。
ひとつ目を抱えて手を洗わせて、足を拭いた。カラスも気狐も。
………それはもう………汚かった。
「休んだみたいだな」
「………僕のせい?」
「『せい』じゃない。心配なんだよ。俺たちは天狗に比べるとかなり脆いから」
「………」
「気にするな。光を大事に思ってくれてるってことだから」
「………」
「気になるか?」
「………うん」
「なら、今日ここで川の字で寝てやればいい」
「え”」
「まあ、イヤがっても天狗は寝る気満々だろうけど」
「………うぅ」
変な声で唸る光に笑いながら、ほら寝転がってろって頭を撫でた。
結論を言えば、光は大丈夫だった。
特に体調を悪化させることもなく、夜は俺と光の2組の布団に3人プラス小さいの3人で寝た。
天狗と俺に挟まれて真ん中の光が、さらに小さいの3人に囲まれて、窮屈そうで気の毒だった。
こんなじゃ寝られないよって、寝る前ぶつぶつ言ってたくせに、あっさり一番最初に寝て次の日は最後まで寝てた。
おかしいなあって髪の毛をあちこちに向かせて言ってる光に笑った。
どこからどう見ても大丈夫そうではだったけど、念のためにその後2日間は外に出なかった。出さなかった。
その間に今年漬けた梅を大きいザルに並べて廊下に干した。それを光と一緒にやった。
こんな風に作るんだねぇって、退屈の中の数少ないやることに、光は目を輝かせてた。
「あそこはきーちゃんのおうちなの?」
もう大丈夫と思ったのか、自分のエネルギーチャージか、ひとつ目が出かけて行った。
カラスも外に飛んで行った。
俺は光と今日のおやつにクッキーでも作ろうと、材料を持ってきたところだった。
光はソファーに座ってて、その横にぴったりと気狐が座ってた。
いつもはひとつ目やカラスに遠慮してる感がある気狐。
今日はひとりじめだな。
光が気狐の白い毛を撫でながら聞いてて、きゅうって気狐が鳴いた。
「帰りたい?」
小さな声。
消えそうなぐらいの。
「おうちに帰りたい?きーちゃん」
語尾は上がってるのに、聞いているように聞こえないのは何故か。
まるでひとりごとのようだった。
つぶやきの、独白のようだった。
「僕はね………帰りたいじゃなくて、帰らなくちゃいけないって、思ってる」
帰らなくちゃって。
光のその声からは、悲しいにおいがぷんぷんした。
その日、天狗はいつも通り仕事に行って、俺はいつも通り光の部屋で光と寝た。
光はその日。その夜。
うなされた。
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