光 111
次はどこを拭くんだろう?
顔から腕にきて背中だったから、お腹?って待ってたのに………待ってたっていうのも変だけど、次はどこだろうって思ってたから、全然じっと動かない鴉にどうしたの?って謎だった。
鳥居。棘岩の近くの。鴉も知ってるところかな。
知ってるよね?それとも忘れてて思い出してるとことか。
できれば一緒に掃除をやって欲しいって僕は思ってる。
だってあれは。あの状態は。
「あそこはかなり荒れちゃってるよねぇ」
「………うん」
「ぴかるんひとりだと大変じゃない?」
「………うん」
そう。僕ひとりじゃ無理、だから。
実際は、ひとりじゃないよ。
いっちゃんもやってくれる。
かーくんも居るし、きーちゃんも居る。まーちゃんだけは………寝てる。
いっちゃんもかーくんもきーちゃんも、小枝や小さい石を退けてくれたりしてくれる。
けどね。
みんな………僕が言うのもごめんね、みんなちっちゃいからね。
そして4人の中では一番大きいはずの僕も小さくて力もそこまで強くなくて、あとみんなほど山に慣れてないから、いまいち役に立ってる感がない。虫にいちいち驚くとか。
だから。
だから鴉。
「鴉」
「鴉」
鴉にお願いしようって、多分いいよって言ってくれるのに、僕はちょっとどきどきした。
どきどきしながら呼んだら、天ちゃんと同時で、思わず天ちゃんと顔を見合わせた。
天ちゃんは、何で鴉を呼んだ?
手伝ってあげたら?って言おうとしてくれた?
それとももっと別のこと?
どうしようって黙ってたら、天ちゃんがぴかるんどうぞってみたいにちょっと頷いた。
だから。
「鴉、あのね」
鴉はいいよって言ってくれる。
いつもそう。
でも今回は、天ちゃんに教えてもらった『おねだり』じゃなくてお願い。
いいよって『言わせる』ような言い方じゃなくて、鴉にちゃんといいよって言ってもらいたい。
僕は鴉の黒いTシャツの裾をつかんだ。
「鴉、あのね。………赤い鳥居のところ。そこの掃除を、僕たちと一緒にやって下さい」
お願いしますって気持ちを込めて、鴉を見上げた。
さっきからずっと黙ってる鴉を。
いつもの無愛想。いつもの無表情。
鴉って呼び名にぴったりな真っ黒な目が、真っ直ぐ僕を見てる。
鴉の目は、きれいな目。
答えない鴉に、ダメかな?って心配になってきて、鴉、お願いって、さらにお願いの気持ちを込めて言った。
言ったら。
「………分かった」
「いいの⁉︎」
「ああ」
「やったー‼︎鴉ありがとうっ‼︎」
やっぱり鴉はいいって言ってくれた。
言ってくれると思った通りやっぱり言ってくれて、僕は身体がしんどいのもどこかにやって、鴉にがばって抱きついた。
「………っ⁉︎」
「わわっ⁉︎」
「へ?」
鴉なら僕が飛びついたってびくともしない。
はずなのに、飛びついた勢いでそのままひっくり返った鴉に僕はびっくりした。
「大丈夫?」
「ごめんなさいっ‼︎」
僕がタックルして倒したみたいになった鴉の上から、僕はめちゃくちゃ焦って慌てておりようとした。
でも、咄嗟に抱えてくれた鴉の腕によってそれは阻止されて。
何でか僕は。
僕は。
「うわぁ、鴉が笑ってる〜⤴︎かわいい〜⤴︎」
「あ、あの、鴉?」
ぶーって、鴉に笑われた。
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