光 106

 あ。






 太陽にじりじりと照らされながら、棘岩を撫でてた。






 暑いなって思いながら、でも、いっちゃんがいつも通り一生懸命だったし、僕も一緒にやるって約束だから。






 途中でかーくんがどこかへ飛んでった。



 木の方。






 僕もそっちに行きたいなって思った。暑くて。






 お茶を飲んだ。ごくごく飲んだ。



 飲むと余計に汗が出るんだけど、汗が出るからさらにに飲んだ。飲まなきゃって。






 帽子はかぶってたけど、かぶってる意味あるのかな?ってぐらいの、今日は日差しだった。



 半袖から出てる腕や首がジリジリ痛い。




 ここでやめておけば良かったと思う。






 飛んでったかーくんはえらい。判断したんだよ。ここに居ると危険って。



 行きたいなって思ったときに行けば良かったんだよ。






 あ。






 思ったら、ダメだった。頭が痛い気がするって。っていうか痛い。






 痛いって思ったら余計にダメだった。



 単純なのかな。痛いって思ったら急激に痛みが増した気がした。ガンガンって。






 ここは棘岩。



 ここでひっくり返ると危ない。



 この山に来たとき、初めてここに来たとき、僕はいっちゃんに驚いてひっくり返ってケガをした。






 ………のは、いっちゃんの不思議な力ですぐに治ったけど、その後の鴉の心配と甘やかしがすごすぎて、もうケガはしないぞってちょっと思ってた。



 だから危ないって、ダメ、またあの心配と甘やかし、何もかもを抱っこでの移動はちょっと。






 咄嗟にそれって何だろう。いっちゃんにまた心配かけちゃうとかあるでしょ。






 なのに僕の咄嗟はそんなので、僕は棘岩に凭れながらずるずるってトゲトゲの間にはさまった。






 こうしておけば倒れない。余計なケガは多分しない。






 鞄から水筒を出した。



 お茶。






 飲まないとやばい。これ熱中症かも。






 お茶。






 蓋を開けて飲んだけど、お茶はそこでなくなった。飲み干した。






「いっちゃん」






 呼んだ。






 思った以上に声が出なくてびっくりした。



 そして多分いっちゃんは撫でるのに集中してて気づかない。






 きゅうって、僕がおかしいのに気づいてくれたきーちゃんが棘岩のトゲトゲをよけながら来てくれた。



 ありがとってなでなでする。






 帰ろう。帰らないと。



 せめて涼しいところに。






「………鴉」






 暑い。



 頭が痛い。



 気持ち悪い。






 鴉、教えて。



 こういうときはどうしたらいい?



 熱中症だよ、多分。鴉ならどうしたらいいか、きっと知ってるでしょ?






「鴉」






 熱中症って、最悪死んじゃうんだっけ。






 毎年夏になると必ずニュースでやってた。



 気をつけましょう。注意しましょう。熱中症予報なんてのも。






 イヤだ。死にたくない。






 死ぬために入ったこの山で、僕ははっきりとそう思った。






 死にたくない。



 絶対死にたくない。



 僕がここで死んじゃったら、鴉が泣くって。






 鴉が泣く?






 鴉が泣くって。



 何それ。






 暑くて頭が痛くて気持ち悪い。



 なのにそんなことを思って笑っちゃう。






 きーちゃんが僕の手をぺろぺろ舐めてる。






 うん。きーちゃんも泣いちゃうね。いっちゃんも、かーくんも。






「天ちゃん」






 あんまり、これはやりたくないんだけどな。



 は、この際置いといた。



 緊急事態ってこういうのを言うんだよね?って。






 天ちゃんをこんな風に呼ぶのは、ルール違反かなって思うよね。






 天ちゃんは人ではない。



 人ではない力を借りるのってさ、特権。






 特権って、特別な権利。






 特別な権利を使えるほど、僕は特別なんかじゃない。






 けど、そんなことを言ってて僕が死んじゃったら。






 それは、イヤ。






 だって。






 だって鴉が泣いちゃうから。






「天ちゃん、助けて」






 びゅうううううって。



 強い風が、不自然に吹いて。






「光⁉︎」

「わお、ぴかるん」






 目の前にあらわれたのは鴉。



 そして、天ちゃん。






 すごい特別な権利だね。これ。






 僕は鴉に、手を伸ばした。

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