鴉 94

 やきもちって言われてもよく分からない。



 これが?この気持ち悪いのが?






 今まで抱いたことのない感情。






 俺は自分を感情の乏しい人間だと思ってた。泣いた記憶もあんまりないから。そういう人間なんだって。



 それで特に不都合はなかった。



 俺には天狗しか居なくて、天狗が俺をそれでいいとしてくれてたから。






 だから分からない。天狗が何でこんなに騒ぐのか。






 多分何でか分からないのは光も一緒で、少し下から視線を感じてそっちを見た。光を見た。






 首を傾げる光に、俺もそうした。






「え?オレのこの嬉しさが分かんない?うっそーん」

「………」

「………」

「これは経験で成長だよ‼経験‼︎︎成長‼︎鴉の‼︎その瞬間を見たんだよオレたちは‼︎」






 経験で成長。



 俺の。






「ぴかるんありがとう〜‼︎天ちゃんは鴉の親として嬉しいっ‼︎」

「うわっ」






 俺は、光の手をつかんでた。



 もう光を部屋に連れて行こうと思って。



 けど天狗が。






 親としてって言葉に、天狗って思ったけどそんなの一瞬。



 ありがとうって言って、がばって光に、天狗がした瞬間。






「………💢」






 やめろ。






 何でそう思うのか。



 俺が拾ったやつだから。光は俺が拾った人間だから。そして俺が世話してるの、だから。






 がばって光に抱きついた天狗を、俺はべりって反射的に引き剥がした。






 今まで特に何とも思わなかった。






 やきもちって言われても違和感。



 これが?この気持ち悪いのが。妙にイラッとするのが。






 やきもちってカラスがよくやるやつだろ?



 俺が光を抱えたりすると、邪魔しにくるやつ。






 ………って。



 俺今、光から天狗を引き剥がした。しかもやめろって思って。






「………」

「………」

「………」






 ふたりの。



 天狗と光の視線が集まる。



 一瞬の沈黙。






 そして。






「ほらー‼︎やきもち‼︎鴉がやきもち‼︎やきもち焼いてる超かわいいーーーーー‼︎」

「ちょっ…ちょっと天ちゃんっ」

「………」






 がっばー。



 むっぎゅー。






 俺と光は、何故か超ハイテンションの天狗に思いっきり抱きつかれた。

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