光 91

 天ちゃんの言葉が心にしみた。






 いつでもおいで。



 いつでもどこにでも駆けつける。






 それが僕にとってどれほどの言葉か。






 母さんが死んじゃってから、僕が安心して居られる場所はなくなった。



 守ってくれる人も、頼れる人も。






 それがここにはあって。場所も、人も。



 あって、それはここだけで終わらない。続く。続いてくれる。続かせてくれる。






 もし、何かあっても。



 僕はここに来ていいし、天ちゃんって呼べば文字通り天ちゃんは飛んで来てくれる。






 たった1ヶ月だよ。まだ。



 なのにそうなんだ。ここはそういうところで、天ちゃんは、鴉は、かーくんはきーちゃんは、いっちゃんは、まーちゃんはそういう人たち。






 鴉以外人じゃないけど。






 でもそんなことは全然関係ない。



 みんな優しい。



 僕が帰りたくない現実世界に居る人たちよりずっとずっと。



 ずっとここに居たいと思うぐらい。






 ぽんぽん。ぽんぽん。






 僕の頭を、撫でてる天ちゃん。






 ああダメだ。また涙が。






 その時だった。






「もしかして光、また泣いてる?」






 鴉の声。






「泣いてないっ」






 思わず反射的に答えちゃったけど、泣いてたことを隠す必要も、ここはないところ。



 だけど今日はもういくら何でも泣きすぎで恥ずかしいし、鴉に心配かけちゃうから。






 って、僕の思惑は。






「うん。ちょっとね」






 あっさり天ちゃんによって台無し。



 うん、天ちゃんってそういう人だよね。こういう。






「泣いてないってばっ」

「じゃあ何でぴかるんのお目々はそんなうるうるなのかなぁ?」

「うるうるじゃないっ」

「鼻水垂れてるし〜?」

「垂れてないっ」

「吸った?」

「吸った」

「出てるじゃん」

「出てないっ」






 鴉が、やっぱり心配してくれてるみたいでずっとこっちを見てるから、大丈夫だよ元気だよ、のつもりでいつものように天ちゃんと言い合う。






 大丈夫だよ。



 僕はここに来たときよりずっと元気。






「光、お茶飲むか?」

「あ、くださいっ」






 飲むかって聞かれて反射的にくださいって答えて、あれ?って違和感。






 何に、かは、分かんなかったけど違和感で、違うよ何言ってんの鴉にやらせず自分でやろうよって。






「あ、ううん、自分でやるっ。天ちゃん離してっ‼︎」

「あー、ぴかるんが逃げるー」

「喉かわいたの‼︎干からびちゃう‼︎」

「泣きすぎて?」

「そう‼︎………っじゃなくてっ‼︎」

「そうって言っちゃったねぇ、ぴかるん」

「………もうっ‼︎天ちゃんのばかっ」

「うわー、ぴかるんがばかって言ったー」

「離してっ」






 言い合いながら天ちゃんから抜け出して、鴉は天ちゃんから僕を助けてくれたのかな?って、思った。違和感は。



 だって鴉って僕にめちゃくちゃ甘々。こういうときって言うより先にお茶が出てくる、から。






 台所に行くときに見た鴉の顔は、いつもよりちょっと、こわいような気がした。

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