鴉 91

 今日も光と寝てやろうって思いながら、風呂から出てお茶を飲んだ。



 居間にまだ天狗が居るっぽくて、覗いたら天狗が。






 天狗が。光が。






 想像してなかった絵面がそこにあって、俺は一瞬どうしていいのか分からなかった。



 猛烈に俺のだよって言葉が出て来て、でもすぐに俺のって何だよって出て来て、だからどうしていいのか。






 天狗と光がくっついてた。






 さっき天狗が俺にしてたみたいに、天狗がしてる。今度は光に。






 ただそれだけなのに、この衝撃。



 どんって、撃たれたみたいな。






 撃たれたことなんかないくせに何言ってんだ?俺。






 思考がおかしい。



 だから余計にどうしていいのか。






 静かな部屋に光のぐすって鼻を啜る音。






「もしかして光、また泣いてる?」

「泣いてないっ」






 咄嗟に出た言葉に答えた光の声が思ったより元気で安心。



 天狗は俺と違うから、言葉足らずで光を傷つけたとかじゃない。






 って、思うのに。



 思うけど。






 俺が居ないところで光を泣かせるな、とか。






 思考がやっぱり、おかしい。






「うん。ちょっとね」

「泣いてないってばっ」

「じゃあ何でぴかるんのお目々はそんなうるうるなのかなぁ?」

「うるうるじゃないっ」

「鼻水垂れてるし〜?」

「垂れてないっ」

「吸った?」

「吸った」

「出てるじゃん」

「出てないっ」






 天狗と光がきゃっきゃしてるのはいつものこと。



 それを見てるのもいつものこと。






 なのに。






「光、お茶飲むか?」






 いつもなら何も聞かず用意して光に渡す。



 と、思う。あんまり聞かない。と、思う。



 風呂出た後だし、寝る前だし、水分とれって問答無用。






 と、思う。






 何で聞いてんだ?俺。



 いつも聞かないよな?聞いてた?






 自分で自分が分からない謎の事態。






「あ、くださいっ。あ、ううん、自分でやるっ。天ちゃん離してっ‼︎」

「あー、ぴかるんが逃げるー」

「喉かわいたの‼︎干からびちゃう‼︎」

「泣きすぎて?」

「そう‼︎………っじゃなくてっ‼︎」

「そうって言っちゃったねぇ、ぴかるん」

「………もうっ‼︎天ちゃんのばかっ」

「うわー、ぴかるんがばかって言ったー」

「離してっ」






 いつまでもきゃっきゃしてる天狗と光を、目が離せず見てた。






 それは俺が拾った小さいの。



 俺が面倒見てる小さいの。






 俺が天狗にされるのは気にならないのに、天狗が光にするのが何で。






 たたたって、天狗の腕から抜け出した光が俺の横を通って台所に逃げた。






「鴉、顔こわいよ?」






 ソファーから俺に視線を向けて、ニヤって笑う天狗。






「いつもだ」

「確かにっ」






 分かってるね鴉〜って笑う天狗を『いつも通り』スルーして、俺は台所に行った。






 小さい光が、グラスを出してた。

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