鴉 88

「またすごい顔だな」






 布団に潜ったまま光が泣き出して、お前今日は本当よく泣くなあって頭を撫でた。



 布団から漏れる声は大きくなって、光は泣いた。






 いっぱい泣け、光。



 お前からはいつも、悲しいにおいがしてる。



 どれだけ涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっても、拾った小さいのの面倒は、拾った俺が見る。



 絶対に、最後まで見るから。











 しばらく泣いてからもぞもぞ布団から出てきた光は、それはそれは天狗が言う『顔ぶさ』だった。



 布団に潜って泣いてたから汗はすごいし目は真っ赤で腫れぼったい。






 もう一回風呂に入った方がいいな。



 布団。シーツも変えた方がいいんじゃないか?枕カバーも。






 汗と涙と鼻水。







 さっきの俺のTシャツ状態だと思う。






 光は身体を起こして、ぐすぐすって鼻を鳴らして、手の甲で涙を拭ってる。鼻水も。






「シーツかえてやるから、シーツで拭いとけ」

「………」






 ちょっと悩んで、でも言われた通り掛け布団の端っこで顔を拭く光が、いつになく素直で笑えた。





  

 布団から出てきたってことは、光の気持ちが落ち着いたってことか?






「ごめん」






 拾った責任、で、面倒を見てる。






 それだけ聞いたら、それだけみたいでイヤだよな。それは悲しい。



 でも、光。それだけじゃない。そう思ってるのは俺だけじゃない。






 もし、あの日倒れてたのが光じゃなかったら、違う誰かだったら。






 それはそれできっと、その光じゃない誰かを拾い、面倒を見ただろう。






 そんなことは、言い出したらキリがない。






 カラスと気狐がそれぞれに光に頭をすり寄せてる。



 光は泣きまくったぶっさな顔を綻ばせて、それぞれの頭を撫でた。






 顔がいつもの光と全然違うのに、いつもと同じように思う。



 光は。






 光は。






 俺は拾った小さいの。



 俺が拾った。






 ………大事な。






 俺は手を伸ばして、その光の頭を撫でた。






 拾った小さいの。



 悲しいにおいがする、小さいの。






 その悲しいにおいが消えるように。



 消えて、嬉しい楽しい、幸せなにおいがするように。






 拾った責任だから。






 光。



 俺がお前を、俺が天狗にしてもらったように。






 光の頭に触れてたら、ふと昔の記憶が頭を掠めた。嬉しかった思いと同時に。






 俺はそのまま光の頭の手を引いて、光を。



 わわってバランスを崩す、小さい光の身体を。昔天狗にされてたように、光を。






『抱っこ』、した。

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