鴉 87
光は部屋に行った。音的に。外には行ってない。
部屋にはカラスと気狐が居るから、何かあったら知らせてくれるだろう。
光に伸ばしたやり場のない手を、空でぎゅっと握っておろした。
今のは何がダメだったのか。
『鴉は思ってることをもっと詳しく相手に言ったほうがいい』って天狗の言葉の意味が分からない。
拾った小さいのの面倒は俺が見ないと。
そう思ってる。だからそう言った。
責任?って聞かれたから、そうって。
俺は天狗にそう育てられた。
だから俺も拾った光に同じように。
同じように。
手をかけ時間をかけて、大切に。
そこまで言葉にして、あってそこで分かった。
拾ったからの責任、だけでは、大切にが伝わらない。
もちろん、もし拾ったのが光じゃなくて違う人間や違う動物でも、拾ったなら責任を持って同じようにする。
手をかけ時間をかけて、大切に。
でも俺が拾ったのは光。
だから俺は。
光を追いかけて、俺は光の部屋の戸を叩いた。
「光、入るぞ」
叩いても光の返事はなかった。
カラスと気狐の声はしてる。ばさばさ飛ぶ音も。
だから俺は戸を開けて、勝手に入った。光の部屋に。
光は乱雑に敷いたって言うか、無理矢理引っ張り出したようなぐちゃぐちゃ状態の布団にいた。
斜めった敷布団に、ちゃんと広がってない掛け布団を被ってた。
分かりやすく怒ってる。
さすがに自分でも言葉が足りないって思った。誤解。違う光。責任だけでお前に構ってるんじゃない。
被った掛け布団の上にカラス。
出てる足に擦り寄ってる気狐。
俺は光の塊の側に行って、膝をついた。ごめんって。
「拾った小さいのの面倒は、拾った俺が見る。それは、拾った俺の責任」
「………」
「けど光」
光はうつ伏せに丸くなって布団を被ってる。
ちゃんとは敷かれてない、被れてない、布団に。
まだ少し濡れた髪が、被りきれてない掛け布団からはみ出してて、俺はその濡れた髪に、そっと触れた。
「拾ったからには、手をかける。時間もかける。大事にする。それが、拾った俺の責任」
ぴくんって。
じっとしてた光が、そこで反応した。
ある意味、光も捨てられた。
母親は先に自ら命を断ち、光ひとりの家に父親は帰らず、学校でも。
捨てられて迷子になって倒れてた光を、拾ったのが俺でよかった。
俺はそう思う。
そう思うよ。光。
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