光 86

 夜ご飯はハンバーグだった。






 鴉のハンバーグ、好き。



 美味しい。






 しかも今日はチーズが入ってて、目玉焼きが乗ってるスペシャルバージョンだった。



 おいしい。おいしいねって食べた。






 天ちゃんと鴉とかーくんときーちゃんと。



 今日は居ないけどいっちゃんが居て、外に出るとまーちゃんが居る毎日。今、に。






 死ななくて良かった。






 ここに居たら思うこれを、僕は山をおりたら思えない気がする。



 ううん。気がする、じゃ、なくて。






 僕はきっと、そんな風には思えない。










 ご飯の前に軽くシャワーを浴びて、そのときに鴉のTシャツを洗った。



 ありがとうの気持ちと、羨ましいの気持ちで洗った。



 洗濯機で脱水して、アイロンがけをした。



 ご飯を食べてお風呂に入ってってしてる間に、風が通るとこに干しといたTシャツはかわいた。



 僕はまたありがとうと羨ましいの気持ちで、天ちゃんが用意してくれた自分の服よりも丁寧に畳んだ。






「鴉、ありがと」






 改めて言うのはちょっと恥ずかったけど、ちゃんと言わなきゃって言って、Tシャツを差し出した。



 言葉にするのは大切って、天ちゃんが教えてくれてるから。






 台所。



 1番に天ちゃんがお風呂に入って、次僕で、鴉はお茶を飲んでた。





 うんって受け取ってくれたから、よしって部屋に戻ろうと思った。



 何だかんだと後回しにしてた鏡チェックしよう。






 僕の矢は今、どうなってるんだろう。






 そしたら鴉が、光、髪の毛って。恒例の。



 恒例だよ。いつも。何で?ってぐらい毎日。






「かわかしたよ?」

「まだ濡れてる」

「いいよ、これくらい」

「いつものことだから、そろそろ諦めろ」






 あきらめろって………って思ってる間に、鴉はもうやる気満々で、ドライヤーを取りに行くんだと思う。立ち上がった。






 自分でかわかした。あとは自然乾燥でいいよ。ほっとけばかわく。






「………いいのに、これぐらい」






 だからそろそろ諦めてって、僕が言いたい。



 何でそんなって思ってたら。






「鴉がやりたいだけだよね〜?鴉」






 居間の方から天ちゃんの声が聞こえた。






 え。






 鴉が、やりたいだけ。






 何を?



 って、僕の髪の毛をかわかすのを?






「そうなの?」






 立ち上がってる鴉を見上げて聞いたら、鴉が。



 鴉が、僕の髪の毛を、触った。






 僕をこわがらせないように、かな。



 そっと。






 鴉?って見てたら、鴉はふいって顔そらした。






「………ひ、拾った小さいのの面倒は、拾った俺が見ないと」






 拾った、小さいのの面倒。



 拾った、小さいのの。






 何でか。



 何でだろう。






 鴉が言ったその言葉が、チクって僕のどこかに刺さった。






 最初はチク。






 けど、チクからどんどんその言葉は僕に刺さって。刺さって。ぐるぐるした。言葉が。






「責任?」






 拾ったから。



 だから、面倒を見る。見てる。見てくれてる。






 そういうこと?






「………そうだ」






 頷かれて、そんなって思ったけど、そうだよね。そう。






 僕は、鴉にとっては『拾った小さいの』。



 鴉が優しいのは、鴉が僕を拾ったから。責任。






 捨て猫を拾ったら、面倒見るじゃん。普通だよ。



 面倒見る気がないなら最初から拾ったりしない。






 鴉は至って普通のことを言ってるのに。






 どうして僕は。






「座ってろ。ドライヤーを持ってくる」






 離れた手。



 行っちゃう鴉。



 どうして。






 ショックを受けてる、僕。






「………いい」

「………え?」

「いい。やんなくていい。何だよ、鴉のばかっ」






 それだけ言って、僕は鴉の前からダッシュで逃げた。






 何でだろう。






 また、泣いちゃいそうだった。

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