鴉 68

 光を居間に運んで寝かせた。



 布団も何もない床の上だから、身体が痛くてすぐ起きるだろうと思った。






 窓閉めを頼んだひとつ目が来て、カラスが来て気狐が来た。



 それぞれが光にくっついた。



 光はまだ起きない。






 ご飯。






「………」






 まあいいかって俺も光の横に転がった。






 俺的にそんなめちゃくちゃ疲れてるとは思ってなかった。



 でも、静かな部屋にすーすーって寝息が、俺の瞼を重くした。











 揺れてる。



 振動。小刻みの。



 あと笑い声。



 誰だ?この声は。






 ああ、この声は光。



 俺が拾った小さいの。



 何で笑ってる?天狗と何か話してる?






 に、したって。



 振動。



 あったかい通り越して暑い振動。






 暑い振動って何だ?って、目を開けた。何で揺れてるのか確認するために。



 そしたら。






「………」

「あ、起きた」

「………?」






 理解不能。






 何。






 目の前に何かあって、何?って顔を上げたら光だった。



 目の前。



 鼻先数センチのとこ。






 顔得してる顔。



 かわいい顔しやがって。笑ってるって何だ。






 じゃなくて。



 え、何。






 キョロキョロってしたら居間だった。



 寝転がってた。床に直。何で?






 目の前に光。



 ばさばさって音がしてカラスが俺に乗った。ちょっと突かれる。何で。



 気狐も俺を覗き込んでて、前足で顔をぺしとかされる。だから何で。



 さらに言えばひとつ目のデカいひとつの目から無言の圧。え、圧出てるけど何。






 何かちょっと状況が飲み込めない。



 光は笑ってるし。






 笑ってる。暑い振動。



 あ、それ光だったのか。振動。



 天狗としゃべって笑ってたんじゃないのか。






 じゃあ何で笑ってる?






「おはよ」

「………」






 何でおはよ?って。






 あれ。






 俺。






「………っ」






 光から『手を離して』起き上がった。



 そしたら余計笑われた。やっと起きた?って。






 起きた。把握。理解した。全部。






 暑かったのは光とくっついてたから。



 振動してたのは光とくっついてたから。



 カラスに突かれたのは、気狐にぺしされたのは、ひとつ目の圧は、俺が光にくっついてたから。そうだろ。






 くっついてた。



 時々布団でやってるみたいに、俺は光に抱き枕したらしい。






 光に抱き枕ってまじかってびびったけど。



 何で俺まで寝てたんだ。自分で思ってるより疲れてた?そんな自覚はない。ないだけで。






 ぶっ………て、光が笑う。



 俺を見て笑う。うるさい笑うな。






 って、思うけど。






 笑う。



 光が顔得な顔で。






 光が笑うなら、何でもいいか。






「鴉って意外と寝起き悪い」

「………」






 笑ってるからほっとこうと思ったら、言われた。






 寝起き?別にそんな悪くない。普通。



 ちょっと頭と口が連動してないだけ。






 笑う。



 まだ笑う。



 俺の寝起きがそんなにツボ?






「さっきすっごい僕にすりすりしてたよ?」

「すりすり?」

「すりすり」






 すりすりって何?






 は、すぐにわかった。ちょうどカラスが光にやってて、コレって光が言ったから。






 すりすり。






 ………すりすり。






 え、すりすり?






 俺が、光に?






 カラスが光にすりすりしてる姿を見て、ウソだろ?って、俺はちょっと、焦った。

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