光 67

「いっちゃん、今日楽しかった?」






 カフェオレを飲んで、左に座るいっちゃんに聞いた。



 いっちゃんは窓の外のまーちゃんを見ながらかな、こくんって頷いた。






 いっちゃんは今日、あんまり僕の近くに来なくて、ちょっと離れたところでまーちゃんと座ってたり、川辺で石を積んでたりしてた。



 時々ゆっきーやゆうちんに話しかけられて、恥ずかしそうにまーちゃんに隠れながら話してるみたいだった。






 いっちゃんのまわりに、白い蝶がひらひらしてた。






 きゅうって右できーちゃんが、自分も楽しかったって言ってるみたいに鳴いた。



 クワってかーくんも。






「うん、楽しかったね。またみんなで行きたいね」






 こくん。



 きゅう。



 クワっ。






 3人がそれぞれに返事をした。






 まーちゃんもうんって言ってくれるかな。






 あくびをひとつして、僕は甘いカフェオレを飲んだ。










 暑い。



 そして重い。






 何で?って目を開けたら、超どアップの鴉が居て何⁉︎って身体を起こした。






 鴉がすぐ横で僕に腕を乗せて寝てた。






 え。何これ。どんな状況?






 反対側にはいっちゃんとかーくんときーちゃん。






 暑かったのはみんなが僕にくっついてたからか。






 っていうか。



 何でみんなして寝てるんだろ。



 その前に僕はいつ寝たんだろ。



 カフェオレを飲みながら眠いなあとは思ってたけど。



 でもって何で僕は居間に居るんだろ。



 廊下でいっちゃんと喋ってたはずなのに。






 廊下で寝ちゃった?



 それを鴉が運んでくれた?






 鴉。






 が、本名だとは思わないけど、改めてぴったりすぎる名前だなって、いつもは絶対見下ろすことのない鴉を見下ろしてじっと見てみた。






 髪が黒。



 今は閉じてるけど目も黒。



 Tシャツもズボンも黒。



 洗濯を手伝って分かったことだけど、パンツも黒だった。






 鴉だから黒なのか。



 黒だから鴉なのか。






 こんなに人の寝顔をまじまじ見るのは、初めてかもしれない。






 で、見てて思う。






 この人。



 鴉って。






 ………カッコいいよね。






 無表情すぎるけど。しゃべらなすぎるけど。しゃべってもぶっきらぼうすぎるけど。でも。






 じーって見てたら、何か感じたのかな?僕の視線とか。



 急にぱちって鴉の目が開いて、ガバって起きて、僕を見てまわりを見てキョロキョロした。






「おはよ、鴉」

「………」






 もう慣れたからこわくはないけど、それはちょっとぶすっとしてるような無言。



 だから時々ありがとうって素直に言いづらかったりもする。言うけど。言うけどね。






「鴉が運んでくれた?」

「………」






 無言だし。



 いつもだけど。鴉あるあるだけど。






「ありがとう」

「………」






 人が‼︎お礼を‼︎言ってるのに‼︎






 ちょっとイラッとしたけど、あれ、もしかして寝起き悪い?って思ったのは何でって、焦点。鴉の黒い目の焦点が。






「………鴉?」






 合ってない。






「鴉」

「………」

「眠いの?」

「………うん」






 うんって。



 いつもよりかなりぼーっとした無表情。



 無表情なのにうんなんて言うからちょっと意外。



 寝起き、もっといいと思ってたけど違っててそれも意外。






「………ねる」

「え?わわっ」







 寝る。



 寝る?



 寝るのまた?






 って、それはいいよ。全然いいよ。いいけどさ‼︎






 鴉にガシってつかまって、僕はそのまま床に倒されて、勢い余ってちょっとゴンっとかなってあっという間に鴉の抱き枕。






 いやーっ、離してーってじたばたしてみたけど、するだけ無駄だった。






「………あとごふん」






 寝てるのか起きてるのか謎のぼそぼそ声。からの、僕の髪の毛に顔ぐりぐり。






 鴉はいつも無表情すぎて、しゃべらなさすぎて、しゃべってもぶっきらぼうすぎなのにめちゃくちゃ世話焼きな大人の男の人。






 大人、の。






 ぐりぐりぐりぐり。






 ………これ、かーくんやきーちゃんと一緒じゃん。






 思った瞬間、僕は吹き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る