光 66

 気づいたら、言ってた。



 また来てもいい?って。ゆっきーに。






 今まで、自分からこんな風に言うことはなかった。



 なかったっていうか。



 そもそもそんなにやりたいこともなかった。



 なかったっていうか。






『光』






 母さんが。



 ………母さん、が。






 やりたいって言ってもきっとやらせてもらえない。



 いつからそう思ってたのか、僕は自分からやりたいって言うことはしなかった。



 母さんに聞かれたときぐらい。



 でも、聞かれても。






 ここでは何で言えるかって、それは僕が近いいつかここから居なくなるから。今しかないから。






 僕は家に帰る。



 ずっとここには居られない。



 だから言える。



 言わないと。期間限定なんだから。






 期間限定だから、断られてもいいやとか、僕はまた会いたいけどゆっきーはそうでもなくて、仮にありがちな社交辞令でのいいよだって、期間限定だからそんなに傷つかないじゃん。



 そのまま会わないで終わってもさ。期間限定なんだから。






 良いのか悪いのか謎の諦め。



 断られたって。実際そう思ってなくたって。






 でもゆっきーは、絶対来てねって最後、僕をむぎゅって抱き締めてくれた。






 ゆっきーは鬼。



 僕は人。



 違う寿命。






 限りある時間。






 期間限定。






 ………期間、限定。






 ゆっきーの身体は、あったかかった。











「疲れたか?」






 ゆっきーたちの山から天狗山の天ちゃんの家に戻って、僕は廊下の窓を開けて座ってぼけっと外を見てた。






 夕飯の準備、手伝わなきゃ。






 そう思いながら、何かちくちくっていうかもさもさっていうか、引っかかる何かが引っかかってて気持ち悪い。






 隣にはいっちゃん。



 隣にはきーちゃん。



 かーくんが脚の上に居て、外にはまーちゃん。






 心配してくれてるみんな。鴉も。






 引っかかってたのは期間限定って言葉。



 そこへの僕の態度。






 おかしくない?って思って。






 鴉が無表情のまま、マグカップを渡してくれた。






「あんまり熱くしてない」

「………ありがとう」






 それは僕がいつも鴉にいれてもらってるカフェオレだった。






「手伝いはいい」






 ぼそってそれだけ言って、鴉はまた台所に戻って行った。






 鴉は。






 鴉はめちゃくちゃ無愛想であんまりしゃべらない。



 けど鴉は。






 優しい。






 僕が何か考え込んでるからそっとしといてくれる。



 そっとしといてくれるのに、それはほっとくじゃない。



 気にかけて、そっと。






 期間限定。



 ここに居る間。



 ゆっきーやゆうちんだけじゃなくて、天ちゃんも鴉もいっちゃんたちも。



 僕がここに居る間だけの関係。






 だから僕は色々言いやすい。言ってる。やりやすい。やってる。結構無茶なこととか。






 でもさ。



 期間限定って、よく考えたら全部がそうじゃない?



 ここに居る間だけを意味する期間限定、じゃなくて。






 人はいつか、死ぬ。



 それだって期間限定。






 そういう意味での期間限定な気がしたんだ。ゆっきーの、絶対来てね、は。






 僕が思う期間限定よりずっと、深く重くて真剣な。



 あの全力の遊び方は、そう。






 色々言って色々やってるここでの僕は、ここに居る間だけって意味の期間限定。



 でも、生きてるって意味で、人はみんな期間限定に居て、なのに僕はここと家で違う僕。






 おかしいじゃん。



 おかしいよね?






 同じ期間限定、なのに。






 短期か長期で使い分けの僕。






 鴉のカフェオレを、飲んだ。



 カフェオレは、ほんのり甘くて、美味しかった。

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