光 65
ご飯を食べ終わってから、僕はまた血桜のところに連れて来てもらった。
6月なのに、もうすぐ満開って感じの赤い桜。
願いを叶えてくれる、桜。
本当に?
って、多分本当。ゆっきーが嘘を言っているようには思えない。
嘘であんな顔はできない。
だから本当。
これは、この木は、桜は、願いを叶えてくれる赤い桜の木。
血桜を見てたら、いっちゃんが隣に来てくれた。
僕のズボンを、ぎゅって。小さな小さな手で。
かーくんは肩に。きーちゃんも足元に。
歩く音がして見たら、鴉も。
「もう帰る?」
「いや、いい」
「もうちょっと見てていい?」
「ああ」
じゃあって、僕は、そこによいしょって座った。
赤い花びらの桜。
願いを叶えてくれる、桜。に、もしも。
時間を巻き戻してください。
もし。
もし僕が、願ったら。そう願ったら。
僕が座ったからいっちゃんが座った。きーちゃんが座った。そして。
鴉。
鴉も、横に。
ありがとうって、思った。
「………母さんは何で死んじゃったんだろう」
「………」
池って言うには、透明度がありすぎておかしいでしょ、な池、も見ながら、僕は体操座りをしていた。
そして考える。
母さんは何で死んじゃったんだろう。
前々からそう思ってたのかな。決めてたのかな。
どんなに家中探しても、遺書らしきものはなかった。出てこなかった。
だから余計に。
分からないから考える。
何で。どうして。
どこまで時間を戻せば母さんは死を選ばないんだろう。
どこまで戻したら。
でも戻したら。
僕の記憶はどうなるんだろう。
今のこの記憶があるままなのかな。
記憶もなくなるのかな。
それはちょっと。
だいぶ………イヤ、かも。
僕は忘れたくない。
いっちゃんもかーくんもきーちゃんもまーちゃんも。
天ちゃんも鴉もゆっきーもゆうちんも。
それに。
思う。
………時間を戻すだけで、解決することなのかな。
時間を戻したって、母さんが死なないって保証はどこにもない。多分。
ぽんって、鴉の腹が立つぐらい大きな手が、僕の頭に乗った。
その手が熱いぐらいあったかくて、僕はちょっとだけ、泣きそうになった。
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