鴉 65
「楽しそうだねぇ、ぴかるん」
夕がともす火を囲むように座って、少し遅めの昼ご飯を食べながら天狗が光に聞こえないよう、小さく言った。
光の横に雪也。
雪也の横に夕。天狗、俺。そして光。円。
光の後ろには気狐やひとつ目。少し離れてネコマタ。光の肩や脚の上に乗っているのはカラス。
………光のところだけ人口密度が高い。
「天狗は何故光をここに?」
俺たち3人はわりと間を開けて座ってるけど、光と雪也は近い。すぐ横。
さっきはお互いのおにぎりを交換して食べてた。そして美味しいって言い合ってた。
光が作った、ちょっと下手くそなおにぎり。
何個か作ったらちょっと上手になってきてたけど、最初は。
俺は、光が形を整えるためにぎゅうぎゅう握ったかたいおにぎりを食べた。
食べながら、天狗と夕の話を聞いてた。
「うーん、何故って聞かれても困るんだけど………何となく?連れて来た方がいいかなって」
天狗がそう思うならそうで。
天狗がそう言うならそう。
「………そうか」
「来ない方が良かった?」
魚。
串の代わりに木の枝を刺して焼いてる。
それをひとつ取って、天狗が。
「………」
天狗のでも雪也のでもない、自然の風が夕の火をゆらっと揺らす。
この山に、もう人は居ない。
昔は天狗山同様人が居たらしい。
でも今は。
「………いや」
夕が雪也を見る。
昔から変わらない。愛情のこもった目で。
人間だった雪也。
鬼になった雪也。
変わらないふたりをのこして雪也の家族や友人が老いて死に、村人もどんどん減り居なくなり、その後はずっとずっとふたり。
それが夕と雪也の今で、今までで。
それが俺と天狗の未来。これから。
俺は人間。
天狗は天狗。
俺は変わらない天狗を残して老いていき、いつか必ず天狗をのこして死ぬ。
ここには、願いごとを叶えてくれる血桜がある。
それは命を人から異形にも変えてくれる。
もし俺が願えば。
もし俺が。
なんて。
天狗。
俺はそうは思わない。
天狗をひとりのこすと分かってても、俺は命を変えようとは。
何でって、それは天狗が俺を拾ってくれたから。
天狗が、人である俺を。
そして育ててくれたから。
人として俺を。
何より教えてくれたから。天狗が。
命を。
食べる。
光が作った、形を整えるためにぎゅうぎゅうに握ったおにぎりを。
食べる。
さっきまで川で泳ぎ生きていた魚を。
頂き、生きて。
夕が雪也を見ていた。
天狗が光と雪也を見ていた。
俺は光を見た。
笑ってる。楽しそうに。
それが答え。
そう思った。
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