光 64
ゆっきーが鬼って、角があるとか髪や目の色が違うとか、そんなのはすぐ気にならなくなった。
見た目が人と違うことなんか、これっぽっちも。
いっちゃんたちで慣れてたのもあるけど。
だって、ゆっきーは普通に優しくて、一緒に居て楽しかった。
気づいたら僕はすっごいしゃべっててすっごい笑っててすっごいびしょびしょだった。
川辺でまったりしてる鴉にわざわざ僕がとった魚を見せに行ったり。
僕ってこんなやつだったっけ。
自分で自分が不思議だった。
楽しくてここまでテンション上がるなんていつぶりだろう。
覚えてないぐらい本当に久しぶりだった。
みんなで………って言ってもほとんどゆっきーが、だけど、とった魚は食べる分だけをゆうちんの火で塩焼きにした。
食べない分は川に帰した。
火を囲みながら、みんなでせーのみたいに『いただきます』って手を合わせた。
さっきまで川で泳いでいた魚。
それを前にしたら、いつもよりしっかり手を合わせなきゃって思った。
ありがとう。僕は、僕がとったキミたちの命を頂くねって。
家で魚を食べてたときには、そんなこと考えたことなかったのに。
きっかけは天ちゃんに家のルールだよって言われたからだけど、今日はそれをすごくすごく思った。
山にいるからかもしれない。
自然に触れているからかもしれない。
命をありがとう。命をいただきます。
目を開けたら、結構長く手を合わせてたつもりだったのに、僕が一番先に終わってた。
長く。
長く長く、天ちゃんも鴉もゆうちんも手を合わせてた。
その中でも一番長かったのは、ゆっきー。
何を、そんなに。
僕たちはゆっきーが目を開けるのを待った。
手を合わせるゆっきーは、めちゃくちゃキレイだった。
「いつもあんな風に長く手を合わせるの?」
僕が作ったおにぎりとゆっきーが作ったおにぎりを交換して食べながら、僕はゆっきーに聞いた。
食べる前。いただきますって。それが気になって。
「長い………のかな?あんまり気にしたことないよ?」
「多分僕の倍以上だったと思う」
話しながらかじったゆっきーのおにぎりは、塩と海苔のシンプルなおにぎり。
シンプルだけど、すごく美味しかった。
美味しいってゆっきーに言ったら、ゆっきーはありがとって。光のも美味しいよって言ってくれた。
絶対ゆっきーのやつの方が美味しいのに、それは本当にそう思ってくれてるんだって思えるようなゆっきーの顔で声。
それに嬉しくなる僕。
「おにぎり作ったことなくて、鴉に教えてもらった」
「あ、一緒。僕も最初は夕に色々教えてもらったんだよ」
「そうなの?」
「うん。僕は本当、全然何もできなかったから」
おにぎりを持ったまま、ゆっきーは目を細めて川の方を見た。
何かを思い出してるみたいに。
そして、教えてくれた。話してくれた。
ゆっきーは鬼ではなく人だったってこと。病弱で、いつ死んでもおかしくなかったってこと。ほとんどを家、部屋の布団で過ごしていたということ。
聞いてて、思った。
だからだ。
ゆっきーは命を知っている。その大切さを知っている。
だから長いんだ。いただきますが。
ゆっきーは寿命が尽きる少し前に赤鬼のゆうちんと出会った。ふたりは恋をして、血桜。
「………え?」
「血桜は、願いを叶えてくれる桜」
願いを?
あの赤い桜が?
ゆっきーが川の方から僕に視線を戻して、泣くみたいにくしゃって顔をして、笑った。
「夕殿と共に生きたい。死ぬ間際に僕は願って、それを叶えてもらった」
さっき、ゆうちんが言ってた。草也っていう名前のゆっきーの弟は死んだって。
鬼と人の寿命の違い。
ゆっきーは命を知っている。
誰よりも命を。
「美味しい」
「ん?」
「ゆっきーのおにぎり美味しい。魚も美味しい。すごく美味しい」
「………うん」
美味しいね。
笑ったゆっきーの顔は、やっぱり泣いてるみたいだった。
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