光 63

 血桜って言われた木を、鴉の服をつかんだまま見てた。






 名前からして、桜?



 でも桜にしたら赤い。すごく赤い。



 だから血桜?






 普通の桜とはきっと違うんだよね?こんな時期に咲いてるし。






 池、みたいなのもそこには、血桜のすぐのところにはあって、キレイな鬼ふたりが並んで立ってて、夢の中にでも居るみたいだった。



 現実離れ感がすごい。






 って、見てたら。



 黙って見てたら。






「よし、光。お魚取りに行こうっ」

「へ?」






 緑の鬼が、にこって笑った。



 で、僕に手を差し出してる。






 キレイな顔に似合わずフレンドリーで、お魚?ってナゾ。






「よろしく、ゆっきー」

「雪也、あんまり無茶するなよ」

「うん、大丈夫。じゃあ先にいつもの川に行ってるね」

「へ?」






 よろしくって。



 無茶って。






 僕何の返事もしてないっていうか、お魚?釣るじゃなくてとるなの?どこで?え、僕だけ?みんなは?鴉は?






 え、待って。






 先にいつもの川に行ってるねって言った?川?






 僕が何?何?ってゆっきーって天ちゃんが呼ぶ緑鬼と天ちゃんと鴉を順番に見てたら。






「光、つかまって」

「へ?え?わわっ」






 僕はひょいって抱きかかえられた。






 どうしてここの人たちはみんなして僕をひょいって簡単に抱えるのかな‼︎



 確かに僕は標準より小さいけど‼︎






 言いたいけど言えない文句を口には出さず言ってたら。






「ひゃあああああああっ」






 僕はそのまま。



 抱えられたまま。



 キレイなキレイな緑の鬼に、連れて行かれた。









「大丈夫?」

「………大丈夫じゃ、ない」






 着いたよって、僕は川辺の大きな石の上におろされたけど、そのままへなへなって座り込んだ。






 こ、こわかった。びっくりした。こわかった。



 ゆっきーは僕を抱えて全力疾走だった。



 その全力疾走がものすごいスピードなのと、時々ぴょんって飛んだりとか。






 嘘でしょおおおおお⁉︎って、しがみつくしかなかった。



 叫んだりしたら舌を噛みそうで、ひたすら耐えた。しがみついて耐えた。






 その結果がコレ。へなへなの腰抜け。






「落ち着いたらお魚とろう?焼いてみんなで食べたら美味しいから」

「………」






 人間離れしたキレイな鬼。



 銀色に緑が混ざったような、風に揺れるさらさらの髪に緑の角、そして宝石みたいな緑の目。



 服が普通だから、普通にTシャツとGパンだから、それもちょっとミスマッチなんだけど。プラスで。






 にこって笑った顔が、僕とそこまで年の差がないような感じでまた。何か。






「ね?」

「………うん」

「ごめんね、びっくりさせて」

「………大丈夫」

「背格好が草に似てるなって、嬉しくて」

「そう?」

「草。草也。僕の弟」






 鬼にも兄弟って居るんだ。






 って、思ったけど。



 ゆっきーの顔が、笑ってるのに泣いてるみたいで、それは僕は、言えなかった。






「ゆっきーって、呼んでいい?」






 その顔は悲しい。






 僕はわざと、天ちゃんが勝手に呼んでるだろう呼び方で呼んでいいか聞いた。



 そしたらゆっきーはくすって笑って、いいよって。



 そして。






 そして‼︎






「光、ほらお魚」






 ゆっきーは僕をまたひょいって抱えてぴょんって飛んで、ばっしゃーん‼︎って。






「もう‼︎ゆっきー‼︎びしょびしょ‼︎」

「大丈夫。夕が絶対着替え持って来てくれるから」

「あ、僕も着替え持って来たんだ。って、ちょっと待ってゆっきー‼︎魚逃げちゃうよ⁉︎」

「それも大丈夫‼︎僕魚とるのうまいから‼︎」






 そういう問題なの?うまいから大丈夫って。






 キレイなのにやることが色々豪快で、僕は楽しくなって、ゆっきーも楽しそうで、僕たちは一緒に、すごい笑った。

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