光 62

 まだ慣れない。



 っていうか、慣れる日なんか絶対来ないと思う、風が吹いてぎゅって目を閉じて、開けたら違う場所ってやつ。






 どんなに人間に見えても、普通に………ホストを普通って呼んでいいのか分かんないけど、普通に働いてても、天ちゃんはやっぱり人間じゃないんだって。



 慣れないコレで思う。






 山。






 風と共に着いたのは山。



 山だけど、さっき居た場所じゃない。






 だって、目の前に人。






「やっほ〜、ゆうちん、ゆっきー。久しぶり〜」

「久しぶりだな」

「お久しぶりです」






 人。



 天ちゃんが知ってる人。



 人間じゃない天ちゃんが、知ってる人。






 すぐ横の鴉の服を、思わずつかんだ。



 じゃないと変な声が出ちゃいそうだった。



 ええ?とか。何?とか。よくない方の声。






 鴉の服をつかんで何とか堪えた。






 天ちゃんは天狗。






 いっちゃんはひとつ目。



 まーちゃんは猫又。



 きーちゃんは気狐。



 っていう『もののけ』。妖怪的な。






 最初こそびっくりしたけど、天狗山はそういう山なんだって納得してみた。






 そして今。また、新たに。新たに、だよ。嘘でしょ?だよ。






 天ちゃんの前に、赤い花が咲く木の前に居たのは。



 赤と緑の。






 鬼。






 だよね?鬼だよね?



 だって。だってだってだって。






 角。頭に角がある。見える。2本。



 赤っぽい髪の人には赤っぽい角。



 緑っぽい髪の人には緑っぽい角。



 あるよ。絶対そうだよ。そして目も。色が。






 背、は、ふたりとも天ちゃんや鴉よりも低い。僕より高いけど。っていうか僕が小さいんだけどっ。



 けど。何て言うか。






 キレイ。



 すごいキレイ。



 男、だよね?男の人。鬼に人って変だけど。すごくキレイ。






 天ちゃんもホストなだけあって普通にカッコいい。



 鴉も無口で無愛想だけどカッコいい。






 っていうのとは、別次元なんだよ。カッコ良さ………って言うよりキレイさが。



 すごく普通の服を着てるのに。まさに人間離れの。






 めちゃくちゃ彼らふたりを見てた。キレイだから。視線が行っちゃうから。



 そしたら。そしたら。






「この子がぴかるん」






 天ちゃんがふざけて紹介を。






「光だってば天ちゃん‼︎」

「赤鬼がゆうちん、緑鬼がゆっきー」






 天ちゃんが、ふざけて紹介を。






「夕だ」

「雪也です」






 してるのに怒らないなんてすごい。






「あ、よ、よろしくお願いします」

「そして光」




 慌てて挨拶をした僕に、急にワントーン落ちた声で、天ちゃんは言った。






「あれが血桜」







 血桜って。







 名前の通り赤い花びらの、桜。






 圧倒されすぎて、僕はしばらく無言で居た。

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