鴉 62

 この山に住む赤鬼と緑鬼のことは、事情みたいなのは、天狗に聞いたことがある。



 赤い、『血桜』と呼ばれる万年桜のことも。






 人間離れした………鬼だから人間離れしてて当たり前だけど、人間離れした美しさと圧倒的存在感を放つふたりの鬼は、鬼故に俺が最後に会ったときとまったく変わらない。



 対しての血桜は………花が増えてた。




 天狗は何故ここに来ようと、光を連れて来ようと思ったのか。






 血桜は満開時に願いごとを叶えてくれという。



 それが風の緑鬼の命を救ったと。






 緑鬼はもともと人間だった。病弱な人間だった。



 命が終わるその時に血桜が満開となり、人間から緑の鬼となることでその命を繋ぎ止められたと。






 そこまでの願いも叶えてくれる、叶えられる血桜。






 でも最近では血桜が満開になっても、願いを言うのがこのふたりしかいないから、願いごとはもっぱら食べもののことばかりだよって、細く華奢で色白の、優しく穏やかに話す雪也という名の緑鬼が笑って言っていた。



 鴉に何か願いごとがあったら、天狗さんに言ってここに来るといいよって。






 ただ、僕は生きたいと願って鬼になったから、どう叶えられるのかは分からないよ。






 せっかく教えてくれたのにも関わらず、俺には特に願いなんかなくて、ここに来るのはその話を聞いたそれっきり。






 天狗は何故、光をここに?






「ゆうちん、ゆっきー、この子がぴかるんね」

「ちょっ………‼︎光だってば天ちゃん‼︎」

「で、こちらの赤鬼さんがゆうちん、緑鬼さんがゆっきー」

「夕だ」

「雪也です」

「あ、よ、よろしくお願いします」

「そして光」






 ………あれが、血桜。






 ふざけてた天狗が、一気に真顔に、真剣になった。



 あれが血桜って、その時だけ。






 天狗は何故光をここに連れて来たのか。






「血桜?」






 天狗の真剣な声に小さくなった光の声が、ひどく心細く聞こえた。

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