光 61
下手でも食ってやるっていう鴉の一言は、何故か僕の耳に胸に心に残った。
うちでは、何もしないのが一番だった。
うちでは、僕は静かにしてるとか、やりたくてもやらないとか、欲しくても黙ってるとか。
それが一番、母さんには。
だから僕は何にもできなくて、母さんが死んじゃって、父さんも帰って来ないからどうしようってすごく困った。
掃除ってどうやるの?洗濯は?
お風呂やトイレがどんどん汚れていくからびっくりした。キッチンの流しとか。
冷蔵庫は異臭がし始めて、何だろうって思ったら野菜が腐ってびしゃびしゃになってた。
え、これ捨てていいの?どこに捨てるの?どうやって捨てるの?
光、邪魔しないで。
光は部屋に行ってなさい。
いいから、光。
何で余計なことするの?
できないならやらないで。それが母さん。
やらないからできない。それが僕。
「光、あんまりぎゅうぎゅうするな。かたくなる」
「え、あ。ごめんなさい」
「食うからいい。ただぎゅうぎゅうするな」
「うん」
いいから。
それでもいいから。
どんなへたくそなおにぎりでも、鴉が食べるからいいって。大丈夫だから作ってみろって言ってくれた。
鴉とのおにぎり作りは、ちょっと楽しかった。
天ちゃんがちょっと大きめのカバンを貸してくれたから、何持って行けばいいの?って聞きながら準備をした。
着替え一式とタオルは必須って言われて、よく分かんないけど入れた。
どこ行くんだろう。
何するんだろう。
着替えは最初鴉のお下がりを着てたけど、梅雨でかわかないのと枚数ないのとで、天ちゃんがちょこちょこ買ってきてくれて、そこそこの枚数になってた。
靴も。
きーちゃんによるいっちゃん誘拐事件で血まみれになった靴を、鴉が洗ってキレイにしてくれたから毎日のように履いていっちゃんたちと山に行ってた。
そしたらぼろぼろになって。
それを見た天ちゃんが買ってきてくれた。
僕は今、住まわせてもらっていて、食べさせてもらっていて、それだけじゃなくて色んなものを与えられている。
ごめんなさい。
思うのと同時に。
もっと。
誰かが居てくれる。
気にかけてくれる。
受け入れてくれる。
僕、居たい。もっとここに居たい。もう少し一緒に居たい。
………そう、思った。
「はい、しゅ〜ご〜。「はいは〜い、集まって集まって〜」
パンパンって手を叩きながら天ちゃんが言ってて、先生みたいって、思って笑った。
こんな派手な先生居ないって。
こんな生徒も居ないけど。
肩にはかーくん。
足元にはいっちゃんときーちゃん。
後ろにまーちゃん。
そして鴉。
どこに行くんだろう。
何するんだろう。
色々考えなきゃいけないと思うに、僕はちょっと、楽しみだった。
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