鴉 61

「はい、しゅ〜ご〜」






 晴れた空の下、天狗の声が庭に響いた。



 時刻は11時。






「はいは〜い、集まって集まって〜」






 パンパンって手を叩く天狗にみんなで集まった。



 みんなって、いつもの。



 俺、光、カラス、気狐、ひとつ目、ネコマタ。






 集まったっていうか、光の移動に合わせてぞろぞろ。






 カラスは光の肩に乗っててずーっと頭を光の顔に擦り寄せてるし、気狐はずーっと光の足元に居るし、ひとつ目もずーっと気狐とは反対側の足元に居るし、ネコマタは光の後ろにずーっと居る。



 俺は俺で、そんな光の半径1メートル以内のところに居る。ずーっと。






「そうか、ぴかるん呼べばみんな来るんだ」

「え?」

「………」

「もてもてだねぇ、ぴかるん」

「もてもて?」

「もてもて」






 光、頼む。



 天ちゃん、何言ってるの?って目で俺を見るな。






 一応ちらって光の方は見たけど、見ただけにした。無言を貫いた。天狗の思考回路は長年一緒に居る俺にも難しいんだ。






 それぞれがそれぞれに光にくっついてる。



 それぞれ思うことがあってそうしてるんだろうと思う。



 俺は俺であるし。






 俺は。






 光をなるべく自分の視界内に入れておきたい。



 拾った小さいのの面倒は見ないと、だから。



 何かあったときに何かできるように。



 そもそも何かが無いように。






 と、思ってると思ってる。






 実際そこまで小さくはない。何もかもをやってやる必要はない。そこまで世話を焼かなくても、光は色々自分でできる。それは分かってる。






 けど。できれば。何でか。何となく。






 天狗がこっちを見て、ニヤってしたような気がした。






「とりあえず行くよ〜?」






 天狗の声と。






 ひゅううううううう…






 風。






 風が吹く。






 自然の風じゃない。これは天狗の風。



 昔からよく知ってる、すぐ天狗のって分かる天狗の風。






 吹いて。






「やっほ〜、ゆうちん、ゆっきー。久しぶり〜」

「久しぶりだな」

「お久しぶりです」






 景色は一変。変わってた。



 山は山だけど、天狗山じゃない山。






 光がびびったのか、俺の服の裾をきゅって握った。






 ああ。






 これ、この声。覚えてる。



 低く艶のある声と、優しい穏やかな声。






 赤鬼の夕。



 緑鬼の雪也。






 最後に会ったのは10年ほど前か。もっとか。






 変わらない姿が、赤い花弁の桜と共にあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る