鴉 60

「よし、今日はみんなで遠足に行こうっ」

「へ?」

「………」







 何だ?



 何か言い出しだぞこいつ。天狗。







 3日ぐらい雨が降って、そのあと2日ぐらいの曇天。後の晴天の今日。






 光に対してどうしていいのか分からないまま過ぎた約1週間。






 日差しが眩しい。



 水分蒸発のムシムシがすごい。そんな朝から。






 みんなで遠足って何だ。みんなってどこまでのみんなだ。そして遠足ってどこにだ。






 何考えてるんだ?






 見たけど、天狗を。



 見るだけで分かるはずもなく。






「実は昨日久しぶりに『夢渡り』したんだよねぇ。久しぶりすぎてできるかナゾだったけど、できるもんだねぇ。さすがオレ」

「え?」

「………」






 ………何か考えてるのか?






「聞いたら川の水も大丈夫みたいだし、今日は1日晴れっぽいし、大きくなった鴉に会いたいって言ってたし、ぴかるんやひとつ目ちゃんたちにも興味津々だったから大丈夫」

「え?え?」

「………」






 何か。






「あ、遠足っていうかバーベキューか。バーベキューバーベキュー。川魚獲って焼いて食べるんだよ。あれ?魚でもバーベキューって言うんだっけ?分かんないや。網とかあったかなあ。あれば野菜も焼けるよね。探してみよ〜。おにぎりは作って持って行こうか。あとは飲み物と〜」

「………」

「………」






 ………考えて………ない、かも?






 多分、だけど。






 天狗の話の内容から、行き先は昔連れてってもらったことがある鬼の山。



 火の赤鬼と、風の緑鬼が住む山。赤い万年桜が咲いてるところ。






 遠目でのぱっと見は人間。



 でも、赤みがかった銀と緑がかった銀の髪、赤と緑の目の色、そして頭にある2本の角。



 だから最初はちょっと、俺は天狗しか知らなかったから、天狗はパーツだけなら人間と同じだから、俺はちょっとびびってた。小さかったから。最初に会ったとき。



 絵本読んでて、鬼はこわいってイメージだったから。






 実際は全然だけど。



 優しい優しい、鬼。






 多分行き先はそこ。






 で、何でまた急に。






 天狗がぺらぺら次から次にしゃべるから、光がついて行けずにえ?え?って俺と天狗を交互に見てた。



 それでも止まらない天狗のぺらぺらに諦めたのか黙った。






「リュックあったかなぁ。ないかなぁ。今から調達してこようかなぁ。ってまだ店開いてないよねぇ。どうしよっかなぁ」






 何でまた急にもう何年も交流のない鬼と。






 っていうのは愚問なんだろう。



 何でって光だ。



 何でなのかは分からないけど、光のために行くんだろう。きっと。



 なら、俺の選択肢は行く一択。






 何か考えてるのか何も考えてないのか、天狗がそう判断したのなら、きっとそれは光にとってプラスになる。






「ねぇ、鴉………」

「………?」

「どうしよう」

「………?」






 光が真面目な顔で小さくつぶやいた。



 真面目っていうか、こわごわっていうか。






 だからどうした?ってちょっと焦った。行きたくないとか?



 そしたら。






 そしたら。






「どうしよう。僕、天ちゃんが何言ってるか全然分かんない」






 俺の横で真顔でつぶやいた光に、俺は堪えきれず吹き出した。

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