光 58
天ちゃんは、すぐにいいよ〜って言ってくれた。
うちにはいつまで居てくれてもいいよ〜って。
「光がそれを選ぶなら」
声。
いいよ〜から、変わる声に。
どきんって、なった。
天ちゃんは、金髪で金色のアクセサリーをいっぱいチャラチャラつけてて、ホストって仕事が一発で分かるような見た目チャラ男。
でも実際は、中身は全然。むしろ逆。
天ちゃんは僕に、逃げることを許してくれない。
僕がそれを選ぶなら。
僕が、ここに居ることを。
居たいと思うのは本当。
でも、居続けたらいけないと思うのも本当。
父さんが僕を探してる。
『あの』父さんが。
父さんとの思い出は、限りなく少ない。
朝早く仕事に行って、夜遅くに帰ってくる。それが父さん。
何でそんな風になったのか、僕は知らない。
いつの間にか。気づいたら。気づいたときには。
ふと、廊下に目が行った。
ふと、そこから思い出した。
『光、上手だったな』
幼稚園の父親参観。
父さんが来て、父さんが。
「天ちゃん」
「ん?」
「僕、廊下の雑巾掛けがしたい」
「へ?」
雑巾掛けレース。
確か、幼稚園の参観日にやって、父さんもやって、確か。
僕はほとんどない父さんとの貴重な思い出をひとつ思い出して、気づいたら天ちゃんに、そう言ってた。
雑巾掛けって結構大変だったんだ。
父さんとの数少ないどころか数えるほど、ほとんどない思い出から雑巾掛けを思い出してひとりでやってみた感想がそれ。
意外と大変。
幼稚園の頃やって父さんに褒められたからって、本当に上手だったのかどうか分かんない。
ただ、思い出した。
思い出したから、やってみた。
父さん。
何で僕を探してる?成り行き?
どたどたやってたら鴉が起きてきた。
天ちゃんはお茶を飲んでた。
きーちゃんが右に左に行く僕を、右に左に見てた。
何でやろうと思ったのか。このもやもやした感じが何なのか。
僕には僕が、分かんなかった。
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