光 51

 母さんが死んだ。

 父さんが家に帰って来なくなった。


 高校の先輩たちに犯された。






 もう生きていられないって思った。



 僕なんか、生きていても仕方ないって思った。






 ざああああああっ………






 雨。






 こんな雨じゃ、いっちゃんは来ない。まーちゃんもかーくんも。






 ぺろって、僕の横に座るきーちゃんが外を眺める僕の手を舐めた。






 ん?ってきーちゃんを見て、撫でる。



 真っ白でふわふわな毛が気持ちいい。






 撫でてまた、外を見る。






 曇りや雨の日が多くなってきた。



 多分梅雨。



 ………多分。






 僕がここに来た日がいつだったか、正直分かんない。その日のできごとがショックすぎて忘れた。






 5月。高校に入学して1ヶ月ぐらいのとき。






 そして多分、梅雨入りしたっぽい。






 ってことは、ここに来て1ヶ月ぐらい?






 死ぬつもりで来たここで、僕はまだこうして生きている。



 しかも、ただ生きてるんじゃなくて。






 楽しく、生きてる。






 いっちゃんが居て、まーちゃんが居て、かーくんが居て、きーちゃんが居る。



 僕はいつもその4人と居る。何でか分かんないけど、一緒に居てくれる。






 そこにホストクラブで働く天ちゃんが居て、家事全般をやってくれる鴉が居て、僕は家や寮に居た頃よりずっと快適に、楽に、楽しく。






 ずんって、来た。身体が。



 ずんって、重い。






 きゅうって、隣できーちゃんが小さく鳴いた。






 大丈夫だよって、また撫でる。






 これはドロ。ヘドロ。



 今日はいっちゃんが居ないから、どうしてもね。こうなるんだよ。






 天ちゃんは言った。僕に矢が刺さってるって。矢が、首のところに3本。



 そして言った。



 そのままじゃ死ぬよ?って。






 ざああああああっ………






 雨。



 雨で、山が霞んで見える。






 このままじゃ死んじゃうらしい刺さってる矢は、3本から2本に減った。



 何でかは分かんない。






 分かんないよ。分かんないことだらけ。特にこの山は。






 僕の部屋にしてもらってる和室の鏡を、僕は毎朝見ることにしてる。



 確かに矢は1本減ってる。



 だからなのかヘドロも減ってた。



 って言っても。






 ずん。






 来る。来てる。ドロが、ヘドロが。






 いっちゃんと居たら少しずつ消えるそれが、今日はいっちゃんが居ないから………。






 1ヶ月。






 父さんは。



 学校は。






 あの場所で、僕には居場所がなかった。



 こんな風に、居ていい場所が。






 雨。






 重くなる身体。






 重くなる心。






 いっちゃん居なければ、いっちゃんと居なければ。






 僕は、本当は、すぐにでも死んでしまうのかもしれない。






 そんなことを思ってたときだった。






「光」






 天ちゃんが、僕を呼んだ。



 その呼び方に、声に。






 イヤな方の意味でどきんって、なった。






 ゴロゴロゴロゴロ………






 遠くで雷の音が、聞こえた。

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