鴉 51

 光がこの山に、この家に来て1ヶ月が過ぎた。




 ………早いな。





 来たときは警戒心すごくて顔色も悪くて表情も………で、どうなるかと思ったけど今は。






 光は、俺の手伝いをするようになった。



 掃除とか、ご飯の準備とか。



 特に言った覚えはないのに、僕もやるって早起きして。






 カラスやひとつ目、ネコマタ、気狐と出かけるのも日課になった。



 気狐に至っては帰らないって、山に帰らずうちに住んでる。



 掃除やご飯の準備の間も、ずっと光にくっついて歩いてる。相当光が好きらしい。






 でも今日は。






 6月。






 雨の多い日が増えてきた。



 今日も雨で、雨だと出かけられない光が、廊下の窓から外を見ていた。



 足元には気狐が座ってる。同じように外を見てる。






 ざああああああ………






 結構強く降ってる。






 娯楽が何もない山の家。



 カラスもひとつ目もネコマタも、雨の日は来ない。



 いつは賑やかな、賑やかになった家が、雨の音しかしない。






 ざああああああ………






 雨を見て、光は何を思うのか。






 1ヶ月だ。






 光は帰ると言わない。



『死ぬこと』は多分やめたんだと思う。そんな空気。



 でもまだ悲しいにおいはしてて、時々ふっと無表情になる。






 無。






 それはふとした一瞬。



 いつも小さいの同士で………ひとり規格外のデカいの居るけど、ぎゃーぎゃーやってる光からは想像もつかないぐらい何もない顔。






 整ってるだけに、その一瞬がぶるってなるぐらいこわいと思う。






 その顔に気づいてるのは光以外全員。






 だからくっついてく。どうしたの?大丈夫?とでも言うように。



 大きいのがひとりまじった小さいのが、くっついて、すり寄って。






 それに光は笑う。どうしたの?って。











「光」






 雨の音しかしない家。



 廊下の窓から外を見ていた光に。






 光。






 今日も金ピカな見た目相当チャラい天狗が。






 チャラくなく、光を呼んだ。






 ゴロゴロゴロゴロ………






 雷の音が、聞こえた。

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