光 49

 僕から逃げようとするきこちゃんを、絶対離さないよってぎゅってした。




 ここで離したら、いけない気がする。




 気がするっていうか。






 離したくない。ちょっとぐらい危なくても、引っ掻かれたり噛まれたりしても。






 何でかな。



 何でだろう。






「足、痛いんでしょ?なのにあんなに走っちゃダメだよ。余計痛くなっちゃう」






 痛いのってイヤだよね。



 僕も久しぶりにしたから、ケガ。僕のは完全に自業自得だったけど、すごくイヤだった。



 考えることの全部が『痛い』になって、まともな考えがどっかいっちゃったりするよね。



 治して欲しくて、無茶しちゃうよね。






 撫で撫で撫で撫で。






 きこちゃんの頭を撫でた。






 でもさ、治して欲しいなら、やって欲しいならちゃんと。






 ………そうだ。






 ちゃんと言わないと、伝わるように伝えないと、誰にも何も、伝わらないんだ。






「ひとつ目ちゃん、きこちゃんの足治せる?多分きこちゃん、治して欲しくてひとつ目ちゃんを狙ってたんだと思う」






 いやいやってするみたいに暴れてるきこちゃんの力が、段々弱くなってきた気がする。



 え、強くつかまえすぎ?苦しい?って、僕もそれに合わせて、少し力をゆるめた。






 まだちょっと暴れてるけど。






 僕はきこちゃんを、よしよしって撫でた。






 ひとつ目ちゃんは、猫又ちゃんの足元で考えてるみたいだった。






 ダメって言うかな?言うかもしれない。



 でもそしたら。






 それでも。






 大丈夫だよ。そしたら僕が手当てする。してあげる。天ちゃんの家に連れっていいか聞いて、洗って消毒して。






 鴉が僕にやってくれたように。






 大丈夫。運んであげる。天ちゃんならきっといいって言ってくれるから、天ちゃんの家まで抱っこして行ってあげる。だから大丈夫。






 よしよし、よしよし。






「ダメ、かな」






 ダメだよね、イヤだよね、ひとつ目ちゃんだって。



 いきなり連れて行かれてびっくりしただろうし、こわかっただろうし、未遂で終わったけどまただし。






 やっぱり天ちゃんに家に連れっていいかどうか。






 そのときだった。






 ひとつ目ちゃんが、たたたって僕の方に走って来た。ひかるって。






 大きな目が、きこちゃんをつかまえてる僕を見上げた。






「ん?」

「とげとげ、いっしょになでなで」

「とげとげ?」

「いし」






 とげとげ、なでなで、いし。






 とげとげ、撫で撫で、石。






「とげとげの石?あ、ひとつ目ちゃんと最初に会ったとこだ」






 それを、一緒に?撫で撫で?






 したら、いいのかな?






「いいよ。一緒に撫で撫でしよ」






 何で撫でるのかは分かんないけど。



 ひとつ目ちゃんがそう言うなら。そんなことでいいなら。






 治してくれそうなひとつ目ちゃんに、良かったって、ありがとって、思った。



 でも。きこちゃん。






「きこちゃん、足が痛いのは分かるけど、治して欲しいなら、ちゃんとお願いしなきゃダメだよ?分かった?」






 それは、きこちゃんに言いながら、僕に。






 僕も。






 言えば良かったんだ。



 何かを、誰かに。黙ってないで。察してよ、じゃなくて。分かるように。






 ………助けてって。






 きこちゃんはきゅうって小さく鳴いて、大人しくなった。






 ふわんってひとつ目ちゃんから、優しい空気が伝わって来た。






 痛いのは、イヤだね。イヤだよね。






 ………ね。

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