鴉 49

 ケガ?




 そこに居た光以外が多分そう思ったはず。





 ケガ?






 そもそももののけってケガするのか?






 光につかまえられつつ撫でられてじたばたしてる『きこ』のどこにって、おい、光。靴はどこだ。何で靴がないんだ。何で靴下なんだ。



 靴下が黒で見えないけど、お前また足。






 痛かったら、痛くないようにしたい。



 だから『きこ』は、ひとつ目を?






「足、痛いんでしょ?なのにあんなに走っちゃダメだよ。余計痛くなっちゃう」






 うーうー唸ってじたばたする『きこ』を、うまく押さえてって言うかつかまえながら、大丈夫だよーって撫でてる光。






 小さい光が。






 ………顔得?






「ぴかるんって何気に美少年?美少女?だよねぇ」






 同じことを思ったらしい天狗が、絵になるぅ〜って。感嘆。



 そして、どこまで見えててどこまで理解しているのか、クワって。カラスが俺の腕のとこで同意?してるのか?同意。天狗に。






「ひとつ目ちゃん、きこちゃんの足治せる?多分きこちゃん、治して欲しくてひとつ目ちゃんを狙ってたんだと思う」

「………」






 光は何でそう思ったのか。分かったのか。



 デカいネコマタの足元にいる小さいひとつ目は、そのデカいひとつの目でじっと、光とじたばたと威嚇の唸りが段々弱々しくなっていく『きこ』を見てるみたいだった。






「ダメ、かな」






 動かないひとつ目。






 まあ、いくらケガをしてるからって、誘拐とかな。



 今だって結局後つけて狙ったんだろ?



 光が気づいてくれたからよかったものの、そうじゃなかったら。






 固まったみたいにじっとしてたひとつ目が、たたたって走った。光の方に。






「ひかる」

「ん?」

「とげとげ、いっしょになでなで」

「とげとげ?」

「いし」

「とげとげの石?あ、ひとつ目ちゃんと最初に会ったとこだ」






『きこ』を治す話から何でって疑問。



 とげとげの石って、あの棘岩。あれを撫でて何か意味はあるのか。






 けど、ああって、なった。






 頷くひとつ目。






「いいよ。一緒に撫で撫でしよ」






 ひとつ目は、そのかわりに『きこ』を。



 ああ、そういうことか。取り引き、的な。






「きこちゃん、足が痛いのは分かるけど、治して欲しいなら、ちゃんとお願いしなきゃダメだよ?」






 分かった?って『きこ』を覗き込む光の声と顔が。






 びっくりするぐらい………。






 顔得って、得だな。






 ひらひらと、蝶が飛んでた。






 ふわふわと、優しい風が吹いた。






 そして『きこ』は唸るのを、じたばたするのをやめた。






 ………で、俺の靴は?どこいった?

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