鴉 47
いただきますって、天狗が用意してくれた昼飯を食べた。
おにぎり。
俺の好きな具の。
味噌汁にはきのこが入ってた。
名前は知らないけど、山のきのこ。うまいやつ。俺の好きなやつ。
多分とれたて。俺の居ない間に天狗がとってきてくれたやつ。
「夕飯は天ぷら?」
「天ぷら」
「山の命だ」
「………うん」
光は小さい。
でも、赤ん坊ではなくて、ある程度育っていて、悲しいにおいがしてる。
ここには多分死ぬために来てて、もう自らって気はないのかもしれないけど、このままだと死ぬかもしれない。刺さってる矢が原因で。
そしていつまで居るか分からない。
ないよ。何も。そんなのを相手に、できることなんて。
天狗なら何かしら力になれるかもだけど、俺はただの人間で、しかも天狗山しか知らない。光の方がよっぽど色々知ってる。
『山の命だ』
うん。
そう。
寒い冬をこえて春が来た。
見えてないだけで、命はそこにあって、春の暖に芽を出した。
俺にできるのは、それぐらい。
『命を分けて頂く』ことを。その命が自分の一部になっていること、食べたものに命を託されたということを、光に。
「いい子に育って、オレは嬉しい限りだよ。鴉」
「………」
………何言ってんだ。
俺は無言のまま、ぱくってたらこおにぎりを食べた。
今日のおにぎりも、めちゃくちゃうまかった。
カアアアアアッ
カアアアアアッ
鳴き声2回。注意喚起。
ごちそうさまでしたって、手を合わせたときだった。
聞こえて来たカラスの鳴き声に、光⁉︎って思わず立ち上がった。
この声は違うカラス。光と一緒に行ったボスカラスじゃない。
でも多分伝令。ボスカラスからの。
じゃなきゃこんな風にわざわざ聞こえるようにすぐ近くで鳴いたりしない。
廊下に出たら、窓の外に居た。ボスカラスより少し小さいヤツ。
そいつが分かりやすくこっちを向いてまた鳴いた。2回。
どこだ?
玄関に回ってサンダルを履いて外に出て、どこで呼んでるのか空を見上げた。ぐるり。
カアアアアアッ………
カアアアアアッ………
少し離れた上空でカラスが鳴いてる。
でもあの声もボスカラスじゃない。
さらに小さく2回鳴き声が聞こえてる。
つまり2回鳴くカラスを辿って行けば、光のとこにたどり着く。そういうことか。すげぇなカラス。
「何だろね?オレは呼ばれてないから、緊急事態ではなさそうだけど」
天狗も出て来て空を見上げてた。2回ずつ鳴くカラスを。
天狗は呼ばれてない。
それは光が遠慮して呼んでないからなのか、本当に緊急事態じゃないからなのか。
「行くよ、鴉」
くいって天狗に肘を引っ張られて、そして。
ざああああああっ………
山に風が吹いた。
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