鴉 44
外に出て指笛を鳴らそうと思ったら、1羽のカラスがものすごいスピードで突進してきた。
カラスだ。
光を見つけて飛んで来たんだろうけどそのハイスピードで光に行ったら危ないだろって、俺は止まり木のように腕を横に出して、短く指笛を鳴らした。
カラスはほんの少し軌道を変えて、ちゃんと俺の腕にとまった。
ちょっと不服そうに俺に向かってクワって鳴いて。
「スピードを考えろ。光はまだ小さいからゆっくりとまってやれ」
「小さくない‼︎高校生‼︎」
「え?高校生でその身長だと、ぴかるんちっちゃい方でしょ〜?」
「………」
天狗の突っ込みに光は黙った。
黙ったってことは、小さいってことだ。
「ゆっくりだぞ、カラス」
「クワっ」
ほら行けって、カラスが乗った腕を光の方にやる。
カラスはばさばさって飛んで光の肩に乗って、光の頭に身体を擦り寄せた。
光も嬉しそうに撫でてる。
これだけ懐いてれば大丈夫だろう。
俺はカラスに何かあったら全力で鳴いて飛んで場所を教えるように伝えた。
声が聞こえない距離なら他のカラスに伝令しろって。
光には天狗を呼ぶようにと、1、2時間で帰ってくるように、とも。
「心配性だなあ、鴉は〜。こんな鴉は初めて見るなあ〜」
にやにやにや。
天狗が笑ってる。
うるさい。天狗は黙ってろ。
いくらひとつ目とネコマタが一緒だからって、光は山に慣れてない。
しかも『きこ』を探したいって。
何か理由があるにしても、ひとつ目を誘拐したもののけだぞ?
天狗が行くならともかく、人間で山のど素人の光が。
心配に決まってるだろ。
でも。
心配だけど行かせるのは。
「かわいいぴかるんには旅をさせなきゃねぇ?鴉〜?」
「………」
「え、天ちゃん何言ってんの?」
マジでうるさいんだけど、天狗。
はあってため息を吐いて頭をガシガシ掻いてたら、てててって、ひとつ目がネコマタの方から走って来て、光がお待たせひとつ目ちゃんってひとつ目を抱き上げた。
光と、光にぷらんって抱えられてるひとつ目と、光の肩に乗ってるカラス。
和むとしか言えない、小さいののスリーショット。
それからすったもんだの………ひとつ目はぴょんってネコマタに乗ったのに、光が全然乗れなくて、ぎゃあぎゃあ騒いで、の後、小さいの3人は、デカいネコマタの背中に乗って行ってきまーすって、山の、森の方へと入って行った。
「天狗山ネコマタバスツアーだねぇ」
「………」
ネコマタは光に気を遣ってか?ゆっくりのしのし歩いてった。
その姿が見えなくなるまで、気づいたら見送ってた。天狗も。
俺が小さいとき、天狗はこんな気持ちだったのか?
心配っていうか。
まあ、心配、だな。
大丈夫だと思うけど。
でも。
家に入ろうにも、家の中だとカラスの鳴き声が聞こえないかもって、気になって入れない。
「あ、オレちゃちゃっと昼ご飯作っとくから、鴉はぴかるんの靴、頼むよん」
俺が家に入らない、入れないのを察したのか、天狗はそう言ってヒラヒラって手を振って、家に入ってった。
「………じゃあ、行ってくる」
天狗に言われたら行かないとな。
なんて言い訳を、わざわざ口に出して言って、俺は、青い空に眩しい緑へと、歩いた。
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