光 44

『時間とは命だから』




 天ちゃんに教えてもらった『うちのルール』は、色々衝撃だったけど、中でもその言葉が一番衝撃だった。





 時間とは、命。









 母さん。









 母さんを、思い出した。






 人は、いつか死んじゃう。



 いつかのそのいつかは、いつか分からない。



 ただ、いつか。



 今日のこの時間の延長線上で。






 そのいつかを、命を、僕は。






「作ってくれてありがとう、鴉」






 何でか言いたくなった。






 延長線上のいつかまでの間の時間を、鴉は僕に使ってくれて、このお弁当に入ってる食べものは、僕の。






 僕の。






「本当はついて行きたいぐらい心配なんだよね〜?鴉。でもそうするとウザがられるかな〜ってことでお弁当なんだよね〜?鴉」

「え?」

「……は?」






 すごい真面目に色々考えてたのに、天ちゃんの声で止められた。







 大事なことのような気がした。ただのルールで終わらせたらダメな気が。






 天ちゃんにからかわれまくる鴉が、めんどくさそうに、照れ隠し的に?サンダルを履いて外に出ていく。






 僕も行かなきゃ。ひとつ目ちゃんと猫又ちゃんを待たせてるんだ。置いていかれてたら悲しい。






 鴉の後ろから僕も外に出たら、何でか鴉が黒いTシャツの腕をスッて出して、指笛を吹いた。






 何?






 そしたらばさばさって羽の音がすぐ近くに聞こえて、振り向いたらカラスだった。






 カラスが見えたからそうしたのか。






 カラスは鴉の腕に、上手にとまった。






「スピードを考えろ。光はまだ小さいからゆっくりとまってやれ」






 あ‼︎また‼︎小さいって‼︎






 せっかく色々考えてて、めちゃくちゃ真面目にありがとうとか思って言ったのに、カラスに真剣に言ってる鴉がムカつく。






 ちょっと自分が大きいからって。






「小さくない‼︎高校生‼︎」

「高校生でその身長だと、ぴかるんちっちゃい方でしょ〜?」






 せっかく色々考えてて、めちゃくちゃ真面目に色々思ったのに天ちゃんまで。






 言い返したいけど、言い返せない。






 だってその通りで、僕はクラスで一番背が低い。



 高校は背の順じゃなくて何でも名前の番号順だから、並んでも一番前じゃないけど‼︎






「ゆっくりだぞ、カラス」

「クワっ」






 鴉がカラスに念をおして、カラスが返事をしてる。






 カラスまで何だよって思ったけど、鴉の腕から僕の肩に飛び移ったカラスが僕にすりすりしてきてかわいくて、何だよをぶつける相手が居なくなった。






 もうっ。






 すりすりしてくるカラスを撫でた。






 あったかい、小さい頭。



 そう、カラスはあったかい。






 そして、これも、命。






 ………母さん。









 命って、何?









 カラスを撫でながら、ちょっとだけそんなことを思った。






 それから鴉がまたカラスと僕にああしろこうしろって言って、それを見てた天ちゃんが鴉をからかって、この人たちって仲良いなあって見てた。






 僕にはそんな風に話せる人なんかいない。






 羨ましいのかどうかも分からないなって見てたら、ひとつ目ちゃんが走って来て僕たちは。






 ちょっと猫又ちゃんに乗るの苦労したけど。



 ひとつ目ちゃんが簡単に乗るから僕もできると思ったら全然乗れなくて、何回やってもずるずるって滑り落ちて全然ダメで天ちゃんに爆笑されたけど。






 のっしのっし。






 ワンボックスカーぐらいの猫又ちゃんの背中に、ひとつ目ちゃんと乗って、僕たちは山の中に入って行った。

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