光 42
僕は早く行きたかったけど、鴉がおにぎりを作ってくれるっていうから待ってた。
おにぎりだけならすぐかなって思ってたんだけど、冷蔵庫を開ける音とか、コンロに火をつける音、たまごを割る音なんかも聞こえてきて、あれ、もしかして。
おかずも作ろうとしてくれてる?
「ぴかるん、鴉の靴っていうか履くものこれしかないんだけどどっちにする〜?って言っても聞くまでもないんだけどさ〜。ちなみにオレのは山歩きには向かないんだな〜」
外で僕を待っててくれてるひとつ目ちゃんと猫又ちゃんが、ちょっと草ぼーぼー気味の庭の向こうの方でころころ転がって………遊んでる?のかな?
それをかわいいなあって見てたら玄関から天ちゃん。
靴、どっちにする?って僕が決めちゃっていいのかな?
台所の前を通るときに、鴉をチラチラ見ながら玄関に行った。
真剣にコンロの前に立ってた。
何でって、思った。
何で鴉は。
「………」
どっち?って。
「こっちだよね、やっぱり」
鴉の靴を見ての僕の反応を見て、天ちゃんがケラケラ笑う。
うん。どっち?って選ぶまでもない。
だって鴉のだよって見せられた履きものはふたつで、ひとつは靴でひとつはサンダル。
せっかくひとつ目ちゃんに治してもらったのに、サンダルで行ってまたケガとか絶対やだ。
っていうかもうケガはイヤだ。
痛くないってすごいありがたいことなんだってすごい思ってる。
もうあんなのイヤ。だからもう聞くまでもない。靴の方が。
鴉の靴、スニーカーは大きかった。
横にある天ちゃんの靴の方が小さいから、男にしたら小さい足の僕は天ちゃんの靴の方がいいんだろうけど、天ちゃんの靴はピカピカの革靴。そしてやっぱりサンダル。
天ちゃんホストだもんね。
「鴉の足おっきいから何か詰めた方が良くない?」
「………紐ぎゅってしたらダメかな?」
「1回履いてみよ」
「うん」
天ちゃんに促されて、僕は座って鴉の靴を履いた。
靴底に見えたサイズは28.5だった。
僕24.5なんだけど。この違いって何?背といい足といい。
「どう?何か詰める?」
「紐ぎゅうぎゅうにして走らないようにしたら大丈夫かも」
天ちゃんと話してるところに、また新たなジューーーって音。
そして漂ってくるにおい。
………お腹すいた。
何を作ってくれてるんだろう。
わざわざ、僕のために。
ほっといてくれてもいいのに。
「じゃあ紐きつくして、今のうちにトイレも行っとかなきゃだよ」
「うん」
その後僕は、鴉が作ってるのが何か気になって、何回も廊下を行ったりきたりした。
………全然見えなかった。
「ほら、弁当。水筒も」
「うん。………ありがとう」
できたぞーって鴉の声に、僕は玄関で鴉の靴を履いた。
渡される包み。
おにぎりだけじゃなくて、お弁当。
お茶まで?
何で。
鴉は色々、僕にしてくれる。
やりすぎだよってぐらいしてくれる。
父さんも、母さんでさえそこまではって。それぐらい。
それは何でなんだろう。
「お、遠足みたいだねぇ、ぴかるん」
「え?………あ、うん。そうだね」
遠足。
お弁当と水筒を持って、リアル猫バス乗って。
行き先、僕知らないけど。
どこ行くんだろう。きこちゃんに会えるかな。
よし、行こうって、思ったときだった。
天ちゃんが、トーンを変えた声で光って、呼んだ。
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