鴉 42
まだ?まだ?
みたいにうろうろしてる光はスルーで、おにぎりを作った。
自家製梅干し入り。
種は出してやった。
その方がたくさん入れられるから。おにぎりに。
3つ。
種を出した梅干しを、ひとつのおにぎりに入れた。
これを食べて酸っぱいって顔を歪める光を想像した。
冷蔵庫にたまごとウィンナーがあったから、たまご焼きを作った。ウィンナーも焼いた。
ミニトマトがあったからひとつ。
何か入れる容器があったか?って、いつから使ってるのか謎の古い茶箪笥の下の方をごそごそ探した。
「………」
あった。弁当箱が。
この家は一度物を捨てた方がいいんじゃないか?って思ったけど、違うか、天狗が敢えてとっておいてあるんだろう。
物はそんなに多くはない。
俺の昔の服とか、不思議な物が残ってるだけ。見つけたこれも。
まさか光が使うことを想定して、じゃ、ないだろうな。
………って、そんな訳ないか。
いや、天狗ならあるのか?
「………」
考えたところで分からないからいい。
俺はそこにあった昔俺が使ってた小さい弁当箱を出して洗った。
これ。
この弁当箱を持って俺は、時々天狗と『遠足』に行ってたんだ。
この天狗山ではなく、違う山。鬼が住む山に。
遠足って言っても、天狗に連れてってもらってたから、ろくに歩いてもないけど。
『えんそくにいきたい』
まだテレビを観てた頃、何かの番組を観て言った俺に、天狗がこれを用意してくれて、『駄菓子』を用意してくれて。
連れて行かれた山で赤鬼と緑鬼に会って、川で一緒に遊んだ。
4人で弁当を食べた。
それが俺の遠足。
楽しかった。
これじゃあ小さすぎるけど、昼ご飯はまた帰って来てからちゃんと食べさせればいい。
小さい弁当箱に、俺は昔天狗がやってくれたようにおにぎり2個とレタスを敷いた上にたまご焼き、ウィンナーとミニトマトを入れた。
これだけでぎゅうぎゅう。
あ、りんご。
廊下を行ったり来たりしてる光にもうちょいだからって言いながら、りんごの皮をむいた。
「ほら、弁当。水筒も」
「うん。………ありがとう」
光に渡した風呂敷には、簡単な中身の弁当箱と、りんごを入れたタッパー、水筒。何かないかって探したお菓子。
お菓子はあったのがそもそも奇跡だけど、あったのがせんべい。
それが個包装だったからそれを2枚と、手毬飴を3つ、ラップに包んで入れといた。ちょっと変だけど、まあないよりいいかって。
何でって………俺が天狗と行った遠足を思い出したから。ただの自己満足。
天狗ってすげぇんだなって、いちいち思うから。
じゃあ俺もしないとって。思うから。
「お、遠足みたいだねぇ、ぴかるん」
「え?………あ、うん。そうだね」
玄関。
光が土間で俺の昔の服を着てて、俺のサイズが合ってない靴を履いてる。
ひとつ目は外なのか、そこには居なかった。
カラスはどこ行った。
外まで見送りついでにカラスを呼ぼう。
「光」
洗濯物を干しに外に行くときに履くサンダルを出そうとしたら、天狗が。
ぴかるんじゃなくて、光。
俺はすぐ横に立つ天狗に、視線をやった。
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