鴉 41
光はひとつ目を誘拐していった『きこ』が気になるって言った。
だって天ちゃんが、きこちゃんにこんなことをする子じゃないって言ったからって。
『きこちゃん』って、お前。
最初ここに来たときと随分感じが変わった気がするのは、果たして俺の気のせいか。
俺や天狗、この山に慣れてきたから?
それとも今までとはまったく違うことだらけだから?
「ひとつ目ちゃんがネコマタちゃんと『ご飯』らしいから、僕も一緒に行ってついでにちょっと探したい。ネコマタちゃんにも乗りたいし」
「………え?」
「え?」
「ネコマタに乗る?」
「うん。乗せてくれるって」
「は?誰が?」
「だからネコマタちゃんが」
「誰を?」
「僕を」
「………」
もののけは、いつからそんな人間に親切になったんだ?
俺はずっとこの天狗山に住んでるけど、正直そんなにもののけと関わったことがない。
ひとつ目といい、ネコマタといい、何なんだ。ついでに言えば、カラスも懐いてるし。
ダメ?って、光が俺を見上げる。
「………」
顔。
その顔‼︎
小動物からおねだりされてる気になるのは気のせいか。
つぶらな目でじっと俺を見て、期待大にキラキラと。
小さくて整った顔って、こういうときの威力がすごいんだな。
ぼふって、見えない何かを食らった気がするのは気のせいか。
気のせいってことにしたい。すべてを気のせいにして、昼何食べるか聞いて準備して、後で靴取りに行くのにヒマだったら散歩がてら連れてって。
じーーーーー。
きらきらきらきら。
行きたい。行っていいでしょ?靴貸して?
声なき声が聞こえるのは気のせいか。
やっぱり、ここに来たときと随分感じが変わった。
光はもっと思い詰めて暗くて重い空気を出してた。
警戒心すごくて壁があって、全部遮断、みたいな。
「腹」
「はら?」
「お前は腹減ってないのか」
ひとつ目がご飯って、実際ご飯を食べるんじゃない。何かチャージ的なことだろう。どんなのかは知らんが。どれぐらいかかるのかも知らんが。ネコマタはどうか知らんが。
あいつらがどうにかして腹いっぱいになっても、お前は、光は同じことをしても腹は膨れないんだぞ。
はあ。
息。ため息。
聞いて、期待大だった光の顔が曇った。眉毛が下がった。
………小さくて整った顔って、絶対得な気がする。気のせいじゃない。
「おにぎり」
「え?」
「すぐおにぎり作ってやるから待ってろ。あとカラスを連れて行け。何かあったらすぐ天狗を呼べ。それがイヤなら」
「やったーーーーー‼︎ありがとう鴉‼︎」
ぼふ。
食らう。食らった。また。何かを。
………拾った小さいのの面倒を見るのは面倒。
だけど。
拾った小さいのの笑った顔は。喜んでる顔は。
「天ちゃーん‼︎作戦成功ーーーーー‼」
「でしょでしょでしょ〜?だから言ったでしょ〜?」
「しかもおにぎりも作ってくれるってーーーーー‼︎」
「わーお‼︎やったね、ぴかるん‼︎ぴかるんるんだねぇ〜」
「………え、ごめん天ちゃん、ちょっとそれ意味分かんない。あ、ひとつ目ちゃん、ネコマタちゃん、もうちょっと待っててくれる?」
「………」
なるほど。そうかそうか。天狗の入れ知恵か。
天狗の悪知恵か。
………💢
嵌められた感が半端なくて、俺はおにぎりひとつにつき自家製梅干しを3つ入れてやろうと、心に決めた。
ほんっと。
小さいのは何するか分からんくて手がかかって。
おもしろくて。そして。
ありがとうなんて喜ばれると、満面の笑みなんか見せられると、それが天狗の入れ知恵でも。
………嬉しいもんだな。
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