鴉 40

「ひとつ目ちゃーん。来て来て〜、早く来て〜、今すぐ来て〜」




 昼ご飯は何にしようか。





 使ったタオルや光の着替えを洗濯機で回しながら風呂掃除をしてた。




 小さいのが居ると洗濯物と掃除の回数が増えるのか。





 ひとつ目の着物も縫わないと、破れたままだ。



 ひとつ目は家とかあるのか?着替えがあるなら着替えてくれれば、その間に直すけどな。






 残念ながら、うちにはひとつ目サイズの服はない。






 気持ち砂でじゃりじゃりしてる風呂の床を洗ってた。洗濯機はちょうど洗いと濯ぎの間で、水が出る音だけだった。だから聞こえた。






 天狗がひとつ目を呼ぶ声。






「猫又ちゃんが来てるよ〜」






 その声に響いたのが、どたどたどたっていう光の足音。



 何で足音で光って分かるかって、天狗はそんな風にどたどた歩かないから。ひとつ目の大きさじゃそんな足音はしないから。だから光。






 にゃあああああああっ






 え。






 洗濯機に水がたまる音が響く風呂場にまで聞こえた猫の鳴き声。






 って、これは猫又じゃなくてどこかに猫がいるってことだよな?






「大丈夫だよ、猫又ちゃーん‼︎ひとつ目ちゃん無事だからー‼︎」






 にゃああああああっ






「………」






 今まで自分が住んでるこの家を、山を、そして一緒に住んでる天狗を、そして自分をさほど気にしたことはなかった。






 家に居るのは天狗だけだし、山でそんなに見かけるもののけは居ない。普通に動物とか虫とか。



 だから特に、気にしたことはなかった。






 なかったんだよ。






 って、俺は何を思おうとしてるのか。






 洗濯機が動き始めて、猫又の鳴き声も天狗の声も聞こえなくなって。



 俺はそのまま風呂掃除を続けた。






 





「鴉」






 磨き終わった床をシャワーで流して、終わった終わったって足を拭いてた。



 そしたらひょこって光が脱衣所を覗いてきて、何だ腹減りか?って。






「靴借りていい?」

「靴?」

「靴」

「何で?」

「僕の靴ないし」

「後で取りに行くけど」

「あ………ありがとう。でも今から出かけたいから」

「………出かける?」






 腹減りじゃなくまさかの出かける。



 出かけるだと?



 どういうことだ?誰と?何で?頭打って足ケガしたばっかで、お前はまた何を。






 ………小さいのの考えることは、俺には分からない。






「………天ちゃんが、鴉がいいよって言ってた出かけてもいいって………」






 天狗が。






 何なんだ一体。



 俺は今から昼ご飯の準備してお前に食べさせないとって。






 はあ。






「だからため息‼︎」






 ため息ぐらい吐かせろ。






「どこ行くって?」

「ひとつ目ちゃんと猫又ちゃんとちょっと………と」

「と?」






 次に光から出た言葉に、俺は耳を疑って。






「僕さっきの『きこ』って子を探したい」

「はあああああ?」






 俺は、自分で言うけどおとなしい。おとなしいっていうか静か。基本騒がない。



 はず、なんだけど。



 自分で自分に、驚いた。

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