光 39

 鴉に抱えられて、離してって言ってるのに鴉は馬鹿力で離してくれなくて靴を脱がされた。


 脱がされた摩擦で悶絶の痛み。



 僕が暴れたからか、ひとつ目ちゃんの手が僕の足に触れることはなかった。






 足。






 痛い。



 痛すぎる。






「うわぁ、ぴかるん痛そぅ」






 天ちゃんが僕の足を見て言った。






 だから痛『そう』じゃなくて痛いんだってば。






 自分で見ても思う。見るからに痛そう。っていうか痛いんだけど。ガーゼとか絆創膏とかもうぐちゃぐちゃであってないようなもの。



 血がまた出てたみたいだし。






 いつもあんまり表情が変わらない鴉もちょっと引いてる顔。表情。



 の、まま。






「洗うぞ」

「えええええ⁉︎まっ、また⁉︎」

「………」






 さっき洗ったばっかりなのに。






 言ってる間に変な風が吹いて、もう場所が天ちゃんの家の前だった。



 便利だな、天ちゃんって。






 けど急すぎて僕の靴を置いてきちゃったみたいで鴉がぶつぶつ言ってた。






 靴ないと困る。



 足。もうひとつ目ちゃんに治してもらうのは決定みたいだから治してもらう。これで断ったらひとつ目ちゃんが気にしそうだし。



 結局何もできてないのに治してもらうのってどうなのって思ってるけど、この痛いのがなくなるのは正直助かる。本当に痛いから。






 ただ、治してもらったら。さ。






 靴。どうしよう。






 なんて考えてる間に僕はもう連れて行かれてる。そのまま。






 足、洗わなきゃ。まず。



 洗わなきゃ、だけど。







 イヤだ。イヤすぎる。イヤすぎて暴れた。






 何で洗わなきゃいけないかって、分かってる。足がコレだからだよ。






 さっきの手当てが無駄なぐらい僕の足はひどい。しかも靴の中は汚い。



 洗った方が多分いい。






 え、僕頭は大丈夫だったのかな。ぶつけてどのタイミングでひとつ目ちゃんが治してくれたのか分かんないけど。



 ふと疑問に思った。



 ぶつけたとこに砂とかついたままだったら、僕の頭ってやばくないの?



 逆に砂とかついたままでも大丈夫だったんなら、足も洗わなくても良くない?






 色々思って足を見る。






 ………それでも洗った方が絶対いいと思うのは、足が本当にぐちゃぐちゃだから。






 また。



 僕またあの痛いのに耐えなきゃダメなのか。






「鴉‼︎今度は自分でやるからね‼︎」






 鴉のタイミングだと思いがけず痛くてイヤだ。さっきは急いでたし本当に問答無用だったから諦めたけど、今度は僕でいいじゃん。



 痛いのは我慢するからせめて。






「………うるさい」

「うるさいじゃないよ‼︎鴉がやると痛いんだって‼︎」

「え?ぴかるん、痛さは変わらなくない?」

「だって鴉、すんごいごしごしするんだよ⁉︎」

「そうしなきゃキレイにならないでしょ〜?」

「そうだけど‼︎そうなんだけど‼︎」






 いいじゃん、いいでしょ?自分でやらせてよ。ダメなの?



 え、僕また鴉にごしごしされるの?






 はあ。






 鴉のため息に、何でため息吐くのって言ったら、僕は鴉にものすごく疲れた顔をされた。











 結局今回も足は鴉に洗われた。



 僕は渡されたタオルをずっと握りしめてて、痛いのに歯を食いしばって耐えた。耐えたけど耐えきれなくて途中叫んだ。






 隣にひとつ目ちゃんが居たから、耐えようと思ったんだけど。無理無理無理無理。痛い痛い痛い痛い。






 ごしごしやられてやっと終わって拭かれてそして。






 ひとつ目ちゃんの小さい手が、僕の両足をそっと撫でた。






 もう、今までのって何だったの。






 足はすぐに治って、痛くなくなった。






「………ありがとう、ひとつ目ちゃん」






 これなら。



 治ったなら。






 行ける。行っていいって言ってくれる?






 僕は、さっきの子が気になるんだ。



 さっきの。






 きこって、天ちゃんが呼んだ子、が。






 探しに行きたい。気になる。



 でも靴。






 どうしよう。もう二度と裸足で行って足ぐちゃぐちゃはイヤだ。それはさすがに。






 行ってもまた、きっと探せない。



 それでも気になる。






 何でか、気になる。






 僕はごしごしって、顔を拭いた。

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