鴉 39

 離してってじたばたする光をおさえて靴を脱がした。




 いい加減学習すればいいのに、光はすぐにじたばたする。





 いい加減学習しろ。



 お前が力で俺に敵うことはない。



 何故なら俺は大きくて、お前は小さいからだ。






 脱がした靴から出てきた足。



 俺の足よりひとまわりぐらい小さい足は、俺が貼ったガーゼや傷バンがぐしゃぐしゃで、足も靴の中も血だらけだった。






「うわぁ、ぴかるん痛そぅ」

「洗うぞ」

「えええええ⁉︎まっ、また⁉︎」

「………」






 またって言っても。






 靴の中は清潔とは言えないだろうし、靴の中の砂がまた傷口に入ってるかもしれない。



 こんな状態でひとつ目に傷を治してもらっても………って思ってる間に風が吹いて、俺たちは一瞬でもう家の前だった。






「………靴」

「あ、ごめーん」






 移動するならするって言え。






 靴を地面に置いたせいで、靴だけさっきの場所のまま。



 天狗が触れてないものは一緒に移動できない。



 天狗が触れてたのは俺とひとつ目。光は俺が抱えてたし、カラスは居ないけどカラスは飛んで来られるから問題なし。






 靴、後で取りに行って洗わないと。



 結構ついてたけど血って洗って落ちるのか。






「鴉‼︎今度は自分でやるからね‼︎」

「………うるさい」

「うるさいじゃないよ‼︎鴉がやると痛いんだって‼︎」

「え?ぴかるん、痛さは変わらなくない?」

「だって鴉、すんごいごしごしするんだよ⁉︎」

「そうしなきゃキレイにならないでしょ〜?」

「そうだけど‼︎そうなんだけど‼︎」






 はあ。






 出るのはため息。



 思わず出たため息に、光が文句を言ってる。何でため息吐くの⁉︎って。






 うるさい。ぎゃあぎゃあきゃんきゃん。



 いちいち色々面倒だし。






「ひとつ目ちゃんも足洗ってもらっといで」






 天狗がひょいって小さくて軽いひとつ目を抱き上げて、光の腹の上に乗せた。



 天狗、ナイスだ。ナイスだ天狗。






 暴れてた光が、それでおとなしくなった。






 暴れてたらひとつ目が落ちるもんな。






 しかし本当に。



 拾った小さいのの面倒見るって………。






 見るけど。



 責任持って。



 拾ったから。






 骨が折れるの意味が骨折だけじゃないって、ここ数日でめちゃくちゃ骨に染みたっていうな。日本語の理解が深まった。まじで。






「だからため息‼︎」

「うるせぇ」

「仲良しだねぇ」

「仲良くない‼︎」

「仲良くねぇわ」






 同時に言って、ああもうまじ面倒って、すごい思った。











 まずひとつ目の小さすぎる足を洗って、次に光の足を洗った。



 心配だったのか、ひとつ目がずっと光の横にくっついてた。



 だから光はおとなしかった。いや、うるさかったけど。いたいいいいいい‼︎って叫びまくってたけど。それでもさっきよりずっとおとなしかった。暴れなかったし。






 キレイに洗って拭いて、そしたらひとつ目がそっと光の足に触れた。






「………ありがとう、ひとつ目ちゃん」






 汗と涙と鼻水まみれの光が、全部に濁音がついてる感じで言った。






 光の足は、キレイに治ってた。






 ほっと、安心。これでもう痛くないなって。






 自業自得なのにほっとけないのは、光が拾った小さいやつだから。






「ひかる、あし、なんで?」

「え」






 光、足、何で。






 ひとつしかないデカい目で、ひとつ目は光を見上げて俺を見上げた。






「靴も履かずにお前を探しに行ったんだよ」

「ちょっと鴉‼︎」






 ちょっとって言われても。



 事実だし。






 隠そうって意味が分からない。






「違うよひとつ目ちゃん、これはっ」

「さがしに?」

「そう。ひとつ目を探してた。一生懸命」

「鴉‼︎」






 いっしょうけんめい。






 ひとつ目は小さく小さく小さく言って。



 ありがとって。



 小さく小さく小さく、言った。

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