光 38
飛びかかられるかもって覚悟した衝撃はいつまでも来なかった。
鴉が僕と唸ってる動物の間に入ったっぽくて、え、鴉⁉︎って、もしかしてって目を開けた。
そのときにひゅうってすごく冷たい風が吹いて、身体がぶるって震えた。
変な風。と。
「気狐」
天ちゃんの、こわい声。
風と同じぐらい冷たい。声。
謎な動物のきこちゃんは、天ちゃんの声に一歩下がった。
それが、僕ときこちゃんの間に立ってた鴉の向こうに見えた。
ううううう。
それでも、唸ってた。
「お前はこんなことをする子じゃないはずだよ?」
そうなの?
中型犬ぐらいの大きさしかないのに、きこちゃんはもう僕にとってちょっとこわいイメージになってたから、こんなことをする子じゃないはずって天ちゃんの言葉にえ?ってなった。
そして思った。
こんなことをする子じゃないって言うなら、きこちゃんは何でこんなことをしたんだろう。
理由が何か、あるってことだよね?
きこちゃんは、唸りながらまた一歩後ろに下がって、そして。
………消えた。
何でだろう。
何故か僕は、きこちゃんのことがすごく気になった。
消えたきこちゃんが気になって、消えた場所を見てたら、鴉に大丈夫か?って聞かれた。
え、全然大丈夫じゃないけど。
足痛い。めちゃくちゃ痛い。死ぬほど痛い。
のは、置いといて。
「ひとつ目ちゃん大丈夫?」
痛いけど、忘れちゃいけない、ひとつ目ちゃんのこと。
ひとつ目ちゃんは、僕を見上げて小さくこくんって頷いた。
よかった。
何も、だよ。
何もできてない、僕は。何もできなかった。今回もまた。
それは、それに関してはくそって思う。けど。
小さな小さなひとつ目ちゃんが、無事。
「良かったあああああ」
良かった。それだけは、本当に。
良かったって気が抜けた、プラス、必死すぎて、ちょっと僕から飛んでた痛みをまた最大限に感じて、情けないことに僕はその場にへなへなって座り込んだ。
抱えてたひとつ目ちゃんもおろした。
天ちゃんが何か言って、おびただしい数のカラスたちが一斉に鳴いて一斉に飛び立って行った。
鳴き声とばさばさって音にわわってなるけど、とにかく足が痛い。
足、今どうなってるんだろう。
すごい痛い。もう立てないかもしれない。立てる気がしない。立とうって気力もないよ。
どうしよう。また鴉におんぶとかお姫さま抱っこ?
考えてうげーってなってたら、ばさばさってカラスが飛んできて、僕の頭の上にとまるからびっくりした。
ありがとねって、頭の上のカラスを撫でた。
撫でながら、帰りどうしようかなって考えてた。
僕の頭に、ひとつ目ちゃんに治してもらうっていうのは、これっぽっちもない選択だった。
前にも治してもらってるし、何もできなかった。だから。
なのに。
「ひとつ目、光の足治せるか?」
「………あし?」
「ちょっ………鴉‼︎」
何言ってんの⁉︎って本気でびっくりした。ふざけないでよって。ばかなの?って。
ばかじゃないなら何?空気読めない人?
「いいよ‼︎大丈夫だよ‼︎ひとつ目ちゃん気にしないで‼︎何でもないからね‼︎」
「………」
「………」
焦る。めちゃくちゃ焦っていい言葉が見つからない。何て言えばいいのか分かんない。
もう黙ってて‼︎って思うのに。鴉は。鴉は‼︎
「ひとつ目に治してもらうか、1日中俺に抱っこもしくはおんぶ、それが1週間以上。どっちがいいんだ?」
「だから大丈夫だって言ってるじゃん‼︎歩けるし‼︎」
ううん、本当は全然、まったく歩ける気がしない。してない。でもだめ。
だめなんだ。甘えてちゃ。
「大丈夫なの?じゃあ帰るからぴかるんおいで」
「………うっ………うん」
おいでって。天ちゃん。
うん。帰らなきゃ。
僕まで帰っていいの?って疑問はあるけど。一旦は、天ちゃんの家に。
帰らなきゃ、だけど。
立てない。
立ちたくない。
痛い。
「ひとつ目、両足」
「………」
「わわっ‼︎鴉っ‼︎ひとつ目ちゃんっ‼︎」
ひょい。
って、僕は鴉にまたお姫さま抱っこをされた。
そして。
ひとつ目ちゃんの小さな小さな手が………。
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