鴉 11
しかし、こうもやみくもに探してもなあ。
家を出てから10分ぐらいして、そう思って足を止めた。
何かないか?って。
ただ走り回る以外に方法は。
絶対何かある。そう思うから。思ったから。
絶対に。天狗が俺でこと足りると判断した何かが。
そしてそれは絶対に、ただやみくもに走って探し回る以外の方法だと思うから。
俺は、天狗しか知らない。
でも、その天狗に対する俺の信頼度は絶対。
天狗ができると言うならできる。
できないと言うならできない。
天狗は誰よりも天狗自身の力を知っていて、過信をしない。
天狗は誰よりも俺ができることを知っていて、過信はしない。
落ち着け。
落ち着こう。
多分俺は今、いつもの俺じゃない。
初めて見る自分以外の人間に驚いてる。
しかもその初めて会った人間である光は俺よりだいぶ小さい。
小さいのに悲しいにおいがすごいし、矢が刺さってるとか天狗は言ってるし。
それで今はちょっと、俺は俺らしくない。
俺が拾った。
カラスが言ったからだけど、だから本当の意味で拾ったのはカラスだけど。カラスはカラスで拾った責任でカラスなりに面倒見てる。
俺は俺で、俺が拾った認識だから、俺が天狗に拾われて、面倒を見てもらってるように。ちゃんと。
落ち着け。
ここは天狗山。俺が知ってる世界のすべて。
………。
目を閉じて深く呼吸をする。
閉じた外界に自分が鎮まる。
俺には俺に何ができるのか分からない。
分からないから、できることをやる。
俺にできること、は。
俺が光を探せると判断した天狗を信じること。だ。
ぴりって。
いつもの山の空気じゃないものを感じた気がして目を開けた。
ぴりっ。
少し痛いような、痺れるような。
天狗山の存在じゃない光の空気跡、だ。
俺はそれの濃い方濃い方へと、走った。
走って走って、俺は、昔人が集まって祭事をやっていたところだと天狗に教えてもらった、広場のようなところに出た。
ぴりぴりする。
ということは、光が近い。
どこだろうと見渡した。すぐに違和感に視線がいった。
中央の棘岩。文字通り全体が棘のようになっている岩。
その横、に。
「光⁉︎」
倒れてるのは、光。
と。
もうひとり、誰かが居るように見えて。
「天狗‼︎」
すぐに呼べば来てくれる天狗を呼んで、俺は光に向かって全速力で走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます