光 10

 気のせいだよ。


 こんな山に人影なんて。


 ここは天狗山。



 入ったら出られないって言われているらしい、人が住んでない、人が居ない………って、居たけど、天狗と鴉なんてふざけた名前の人たちが。でもここまで来るのに誰も居なくて、誰か住んでるような感じもゼロな山。



 の、中腹ぐらいに人、なんて。






 ないない。あるわけない。そんなこと。






 けど。もし。






 あった、ら?






 見えたように見えたのは一瞬で、もう見えない。ない。



 だから気のせいだって。野生のサルとかそんなだよ。



 サルだったら近づいたら危ないでしょ。人に慣れてないだろうし。






 色々思うのに、でも人だったら?って思ったら気になって、僕はそっちに、ぽこんって何かある方に近づいた。






 近づくにつれて、そのぽこんってやつが岩だって分かった。






 岩っていうか石っていうか?大きめの。






 その石は変わった形をしてた。



 近づいてそれも分かった。何かトゲトゲしてる。初めて見た。そんな形。






 近づいて、どんどん近づいて、そのまわりにもぽこぽこ小さく石があるのが分かった。



 やっぱり少しトゲトゲしてた。






 そして人影なんてどこにもなくて、やっぱり見間違いかあって思った。






 そうだよね。誰かなんて居るはずないよね。こんないわくのある山になんて。





 居たらこわい。



 居たら僕みたいな人って可能性大じゃん。






 良かったって、もう少し上にのぼろう。のぼって行こう。って、思ったときだった。






 ひら。






 視界の端に、動く何かがうつってそっちを見た。






 それは蝶々、だった。黄色い。普通の。






 まあ、山だし。蝶々ぐらい居るよね。






 で、今度は逆側の視界の端に動く何かがうつって、僕は何も考えずまた蝶々かなってそっちを見た。






「………っ」






 そしたら。






 違う。違った。



 そこに居たのは蝶々じゃなかった。



 蝶々じゃなくて。






「うっ………うわあああああああっ………わっ、わわっ………」






 目があった『ソレ』にびっくりして足元に並ぶみたいに埋まってる石に足を取られた。



 そのまま後ろ。



 身体が痛くて踏ん張りがきかなくて、バランスを崩して僕は思いっきり後頭部から。






 ガツッ………






「………っ」






 衝撃。



 痛み。






 星。チカチカって。






 ひっくり返った。倒れた。そして動けなかった。痛くてこわくて。






 だって。



 だって。



 だって‼︎






 そこに居たのは。僕が見たのは、目があったのは。






 小さい小さい、女の子。



 白い着物を着た女の子。






 大きな、『ひとつしか目のない』。






 石に思いっきりぶつけた頭が、どくんってなった気がした。

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