光 9

 走った。




 昨日山に入って転んでそこからの記憶がない。


 気づいたらあの家に居た。





 僕が倒れてたところからあの家までどれぐらいの距離があるのか分かんないけど、たまたま通りかかって僕を見つけて、運んでくれて寝かせてくれて、ご飯まで。






 見ず知らずの僕にそこまでしてくれる親切な人たちが、もしかしたら追いかけてくるかもしれない。



 あのふたりじゃなくても、変に懐いてくれたカラスがついてきて、どの辺に居るかってあのふたりに教えちゃったりするかもしれない。






 だから走った。



 草がわさわさはえてる細い道を。



 道じゃないところを通った方が本当はいいんだろうけど、そこを通る勇気は僕にはなかった。






 死にたいとか死のうとか思ってここに来て、道じゃないところを走るのがこわいって、バカな僕。






 でも、走れなかった。






 何で。






 夢で見た母さんの口が言う。何で。







 死にたいんでしょ?僕は。



 死にに来たんでしょ?僕は。



 なのに何で。






 何で。






 深く考えたら、いけない気がした。






 あちこちが痛いのと、食べてすぐ走って横腹が痛いのと、ちょっとしか走ってないのに息切れがすごいので、10分も走らないうちに僕の足はスピードをゆるめた。






 振り返る。






 誰も居ない。






 上を見る。






 何も飛んでない。






 家に帰るって言ったの、信じてくれたのかな。それとも。






 どうでもいい、よね。見ず知らずの僕なんて。






 そうだよ。僕なんかどうでもいいんだよ。



 母さんにとっても父さんにとっても、僕はどうでもいい存在で、中学の先生は中学生の間だけ。卒業したらどうでもいい。



 高校は義務教育じゃないからもっとどうでもいいんだよ。



 そして僕に友だちなんか居ない。






 あの人たちだってたまたま僕を見つけたからほっとくにほっとけなかっただけ。カラスは所詮カラス。






 僕は、誰にとってもどうでもいい存在。






 なら、最初から作んなきゃいいじゃん。僕なんて。命なんて。






 考えてたら悲しくなってきて、じわって涙が浮かんで、僕はブレザーの袖で涙を拭いた。






 そうだよ。どうでもいいんだよ。僕なんて。



 だから僕は。だから。






 歩いた。



 昨日みたいに限界まで歩いて倒れたら今度こそって。



 それだけを望んで、願って、早足で。






 歩いて歩いて歩いて歩いて。











 ザアアアアアアアッ………











 抜ける風。



 急にひらけた視界。






 開けて、バスケットコートぐらい。



 木のない平たいところに、僕は出た。






 そこは山の端っこの方で、少し下に街の景色がキレイに見えた。






 山登りとかしたことないけど、山ってこんななの?急にこんな。






 って、別にそれこそどうでもいいやって、絶対誰にも見つからないぐらいもっと上に行こうって、上に行く道はないかキョロキョロしたときだった。






 ひらけた部分の真ん中らへんの、何かがぽこってあるところに。






 見間違い、だよね?






 小さな人影が、見えた気がした。

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